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AIでどう変わる 製造業の営業と顧客サポート

CBINSIGHTS
営業やカスタマーサポートを効率化する人工知能(AI)に注目するメーカーが増えている。AIで見込み顧客を分析したり、自然言語処理(NLP)の進歩によってより精度の高い音声認識やチャットボットを提供したりする。製造業の営業やサポート部門向けに特化したAIサービスも登場している。AIがもたらすメーカーの営業やサポート体制の変革をCBインサイツがまとめた。

メーカーにとって営業やサポートは時間がかかる非効率的なプロセスだ。サポートチームが大量の同じ依頼に対応し、営業部隊が膨大な見込み客の情報を手作業で分析しているケースは多く、これにより新たなビジネスチャンスを逃すリスクが高まっている。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

そこで、単純なサポート依頼に自動で対応し、営業プロセスを効率化し、スタッフの指導を合理化するためにAIに目を向けるメーカーが増えている。例えば、サポートチームのために機器の不具合を自動診断できるようコンピュータービジョン(映像から様々な情報を得る技術)を使い、サイトを閲覧している見込み客にすぐに対応するために対話型AIのチャットボットを活用するようになっている。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によりリモート営業やサポートへの移行が加速する一方、多くの企業の売り上げは減少している。このため、AIを活用したツールはメーカーにとってますます魅力的に映るようになるかもしれない。

今回のリポートでは、AIがメーカーの営業やサポートにどんな変革をもたらしているかを調べる。NLPを使った営業やサポート、音声認識を活用した人材教育、コンピュータービジョンの技術サポートへの適用について取り上げる。

主なポイント

・メーカーが消費者に製品を直接販売する「D2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)」モデルへの移行が加速するのに伴い、チャットボットや音声分析などAIを活用したサービスはさらに有用になる。AIを使うことで営業やサポート部隊をより速やかに構築・拡大し、顧客のロイヤルティー(忠誠心)を高め、新たなビジネスチャネルを開拓しやすくなる。

・最近のNLPの進歩によって営業やサポートの合理化が進んでいる。米グーグルや米NPO「オープンAI」などオープンソースのNLPモデルは、顧客の意図をより的確にくみ取る多くの音声認識やチャットボットの土台を提供している。

・製造業の営業やサポートに特化したAIサービスが登場し始めている。多くのメーカーは既に営業やサポートで特定の業界に特化していないAIツールを導入している。これに対し、スウェーデンのメーブノイド(Mavenoid)やイスラエルのテックシー(TechSee)など一握りのスタートアップは、AIを使ったメーカー特化型の営業やサポートのシステムを開発している。

なぜ営業やサポートにAIを活用するのか

AIを使えば営業やサポートを合理化できる可能性がある。このため、メーカーはさらに多くの事業を創出し、ブランドへの忠誠心を築き、顧客のフィードバックからよりたくさんのことを学ぶことができる。新たなD2Cチャネルの構築に乗り出すメーカーが増えつつあるなか、こうした点は特に重要だ。

見込み客への自動対応やコンピュータービジョンの技術的診断への活用などAIを営業やサポートに使うことで、メーカーは顧客と接する事業部門を新設し、既存部門を拡大する体制を整えられる。

さらに、AIを使えばコロナ下で遠隔サポートや営業を推進する新たなインフラを持つことができる。例えば、音声認識ソフトにより在宅勤務の環境でも営業やサポートの担当者を指導できる。同様に、サポートチームはNLPを使ったチャットボットを導入したり、人間がさほど介入しなくても顧客の技術的問題の解決を支援したりできる。

メーカーのコスト削減と顧客対応力の向上の必要性はこれまで以上に高まっている。多くのメーカーがAIを有用だとみている。

NLPを使った営業やサポート

見込み客への自動対応から技術サポートでの関連情報の抽出に至るまで、NLPは多くの営業やサポートのツールを可能にしている。

メーカーのサポートチームは気付けば同じようなサポート依頼に対応しているかもしれない。NLPを使って繰り返し発生する顧客の問題を見つけ出し、解決してくれるサポート用チャットボットを導入することで、スタッフはもっと専門的な依頼に対応する時間ができ、メーカーもコストを削減できる。

メーブノイドはよくある質問やホワイトペーパー(製品やサービスの選択や導入を支援する情報)、過去のやりとりの記録など大量のサポートデータを取り込み、チャットボットを通じて製品の技術的問題を解決できるよう顧客企業を支援する。同社はスウェーデンの林業・農業・造園向け機器メーカーのハスクバーナや、ドイツの自動車部品大手ロバート・ボッシュ傘下の家電メーカーBSHなど複数のメーカーにサービスを提供している。

(出所:メーブノイド)

NLPを使ってサポート向けに非構造化データを抽出し、管理するスタートアップもある。チャットボットを手掛ける米アイセラ(Aisera)はNLPを使って製品に関する書類を探し回り、利用者との会話をより人間らしくしようとしている。

チャットボットのこうした使い方により、メーカーはスタッフに過度なプレッシャーをかけることなく営業やサポートの機会に対応できる。

音声分析を使った営業やサポートの指導

音声分析を使って電話の会話から生成されたデータを有効活用することで、メーカーの営業やサポートチームの指導を改善できる。

AIの音声認識を使えば電話を自動で文字に変換し、念入りに調べられるようになる。音声分析プラットフォームは特定の製品についての話題がいつ発生し、やり取りされたかを認識し、分類するよう訓練付けすることもできるため、メーカーはその製品の最も効果的な販売戦略を把握できる。

例えば、スタートアップの米ゴング(Gong)や米コーラス(Chorus)は営業の電話を聞き取り、世間話や価格決め、営業の目的、商品の機能についての説明など会話内容を認識できるNLPツールを提供している。これを使えば、管理職は営業スタッフと顧客のやり取りを評価する時間を節約できる。サポート依頼に対応するためにコールセンターを使っているメーカーにとって、指導を最適化することは特に重要だ。こうしたメーカーはスタッフが入れ替わる率が高い傾向にあるからだ。

例えば、米コールマイナー(CallMiner)は音声認識とAIアルゴリズムを使い、コールセンターのスタッフを応対の明瞭さや共感度などを基準に採点する。同社は自宅用フィットネス機器メーカー、米ノーチラスの通話時間を17%減らし、20秒以内に電話に出た回数を200%近く増やしたとしている。独シーメンスが出資する米オブザーブ・ドット・AI(Observe.ai)はスウェーデンの鍵・ドアメーカー、アッサ・アブロイなどの顧客の電話をAIを使ってモニタリングし、担当者の会話を採点し、口調や言葉遣い、感情などに基づくフィードバックを提供している。

(出所:オブザーブ・ドット・AI)

音声認識やNLPを使って指導を提供したり、顧客に応対中の担当者をリアルタイムで支援したりする音声分析システムもある。

独ポルシェは最近、米カリフォルニア州に拠点を置くAIスタートアップ、クレスタ(Cresta)に出資した。クレスタは電話のデータを取り込んで会話の進め方を見極め、顧客に応対中のコールセンターのスタッフに対応を提案するツールを手掛けている。

コンピュータービジョンを使った顧客サポート

技術サポートや複雑な問題で意思疎通を図るのは顧客と担当者の双方にとって難題だ。だがコンピュータービジョンで製品の不具合を自動診断し、サポート担当者にメンテナンスを指示する手段を提供することで、このプロセスを簡単にできる。

テックシーはトラブル解決やメンテナンスのために利用者とサポートチームを動画でつなぐ。スマートフォンのカメラを介してコンピュータービジョンで製品や部品、機器の状況を自動的に判断し、機器の扱い方を指示するなど対応を指南する。

(出所:テックシー)

メーカーは既にコンピュータービジョンを使った技術サポートにより、遠隔から適切な支援を提供できている。遠隔サポートのニーズはコロナの影響に加え、製造業のメンテナンスや指導の改善に拡張現実(AR)/仮想現実(VR)を使う新たなトレンドによって高まっている。ARヘッドセットをコンピュータービジョンで増強することで、メーカーはより効率的に機器の問題を診断し、対処できる。

コンピュータービジョンの技術支援への適用はまだ新しい分野だが、メーカーのサポート提供方法を大きく変える可能性がある。

今後の見通し

メーカーは営業やサポートにAIを導入しつつあるが、スタッフの指導や、見込み客への自動対応、情報の管理など利用態勢が整っているシステムは業界特化型ではない。

もっとも、メーブノイドのNLPを使った技術診断や、テックシーのコンピュータービジョンに基づくサポートシステムなど、メーカーの営業やサポートの問題に直接対処するために開発されたAIシステムの提供に乗り出した企業もある。テック業界の成熟に伴い、製造業特化型のAI営業・サポートプラットフォームが台頭するだろう。

営業とサポートの自動化が進めば、業界特化型ではないものが大半を占める現行システムに対してでもAIの機能を評価し始めるメーカーが増えるだろう。これはD2Cチャネルを構築中のメーカーや、新型コロナで業績が圧迫されているメーカーに特に当てはまる。

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