中国のネット技術者、日本への「出稼ぎ」に関心

中国でインターネット分野の創業熱が下がっている。ある東京大学発スタートアップの創業者は今年、ネット事業の資金調達のため中国に長期滞在したところ、現地のベンチャーキャピタル(VC)約30社から事実上、門前払いされた。一方で中国市場に限界を感じ、日本への「出稼ぎ」に興味を持つネット技術者が増えていることに気づいた。
「ネット案件だと切り出したとたん、会話が続かなくなった」。エレベーター向けのデジタルサイネージ(電子看板)を手がける東京(東京・新宿)の羅悠鴻代表取締役は9月までの8カ月間、中国で北京、深圳など約10都市を回り、VCと接触した体験を語る。
在日華僑の羅氏は東大院在学中の2017年に同社を創業。三菱地所との共同出資会社などを通じ、エレベーターの扉の内側に投影する動画広告などを手がける。オフィスビルへの設置は1800カ所に達し、22年11月期には通期の営業損益が初の黒字に転換した。

本業が軌道に乗るなか、あえて新型コロナウイルス下の中国に長期滞在した。投影用プロジェクターの部品調達、中国の技術動向の調査のほか、ネット事業への多角化に必要な投資を募るのが大きな目的だった。
しかし、訪れたVCなどは「半導体や新素材など『ディープテック』にしか関心がなかった」(羅氏)。ネット産業への締め付けを強める一方、米中ハイテク摩擦の焦点である半導体などの自給率向上を目指す当局の意向と辻つまが合う。
羅氏はやむなく別の話題を探すうち、どの面談でも日本の「高度外国人材」制度に中国側が食いついてくることを発見した。技術や管理、法務などの高度な知識を持つ外国人を対象とした在留資格で、日本政府は受け入れを拡大している。
「優秀な技術者が米中摩擦のため米国に移住できなくなり、その目が日本に向いている」。羅氏はこう判断し、新規事業の責任者を任せられる中国のネット技術者数人の来日を受け入れる準備に入った。一方で、資金は主に日本で調達する方針に切り替えた。
中国のネット産業では最近、当局の締め付けや市場の成熟、ゼロコロナ政策を嫌い、海外脱出を志向するスタートアップや技術者が増えているとされる。日本は中国語が通じるシンガポールに次ぐ人気の脱出先といわれる。羅氏はその動きを現場で目撃したようだ。
日本の産業界では長年、半導体や自動車の技術者の中国流出が大きな悩みだった。中国ネット産業の変調は逆に、日本が優秀な人材を奪う側に回る転換点なのかもしれない。
(アジアテック担当部長 山田周平)
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