/

ブランド衣料のサブスク、大丸松坂屋に問われる目利き

ビジネススキルを学ぶ グロービス経営大学院教授が解説

J・フロントリテイリングが、傘下の大丸松坂屋で3月中にブランド衣料品のサブスクリプション(定額課金)サービスを始めると報じられました。小売り大手による衣料品のサブスクとして初めての試みとなります。新型コロナウイルスの影響で来店客が落ち込む中、「モノの所有(売り切りモデル)」から脱却し、「モノの利用(サブスクモデル)」によって新しい顧客を開拓しようとする世の中の流れに乗ったものといえます。どのようなビジネスモデルで、課題はどこにあるのでしょうか。グロービス経営大学院の斎藤忠久教授が「サブスクリプション」のビジネスモデルをもとに解説します。

【解説ポイント】
・ブランド衣料品は消費者にとってサブスクで手が届きやすくなる
・注文内容の見通しや商品管理が甘いと、不採算リスクあり

サブスクとは、継続利用を前提とした有料会員向けの定額制サービスのことです。古くは新聞等の定期購読、会費制のスポーツジム、2000年代初めに一世を風靡した「着メロ」等の携帯電話向けコンテンツ配信サービス、そして最近ではネットフリックスといった動画配信サービスもサブスクに該当します。

高級衣料品サブスクのお得感

最近はあまりモノを買わない若者が増えてきています。このような流れの中で「所有(買い切り・売り切り)」ではなく、「継続利用」に焦点を当て、顧客視点で価値提供を捉えなおそうという動きがサブスクです。

サブスクの利用者メリットとしては、①安い費用で始められる②モノを所有せずに利用できる、③必要なくなれば解約できる――といった点があげられます。

大丸松坂屋の事例では「マルニ」、「シーバイクロエ」や「エポカ」といった国内外の女性向け高価格帯衣料品を月額1万1000円(税抜き)で3着まで着用できます。特に女性向けの高級衣料品は、

(1)デザイン、色、サイズ等々の変数から商品点数が多い
(2)シーズン性や流行に左右されやすい
(3)先読みが難しい

などの理由から、事業者側からみると極めてリスクの高いビジネスです。一方、消費者側からは、高級衣料品は高額な割にシーズンや流行に左右されることから、着用する期間が限られるなど、なかなか手が出しにくい商品といえます。年間13万2000円で季節や好みに合わせて選べる、というのはなかなか魅力的サービスではないかと思われます。

売上高は会員数×単価

サブスクの事業構造は比較的シンプルです。

(1)月間売上高=会員数x月間平均会費単価
(2)当月末会員数=前月末会員数x(1-月間解約率)+当月加入新規会員数

売上高を伸ばすには、まず会員数を増加させていくことが必要です。会員数が増えるかどうかは、「退会者=前月末会員数x退会率」と「新規加入会員数」のどちらが多いかによって決まります。サービス開始当初は後者が前者を大きく上回って会員数は急速に増加していきますが、ある程度時間がたつと退会者も増えていき、両者が同一水準となったときに会員数は飽和することになります。このため、①ユーザーの満足度を維持・改善して退会率を抑制する、②サービスの魅力度を上げるとともに認知度を高めて潜在顧客を新規会員として吸引していくこと、がポイントとなります。

次に、会員数が横ばいとなっても、月間平均の会費単価を上げることができれば、売上高を伸ばすことができます。そのためには、サービスの魅力度を高めて既存会員に同じサービス内で複数の商品を購入してもらう(今回の事例であればサービスを2口購入してもらうなど)、そして新規サービスを追加して既存顧客の利用額を積み増すといった対策が効果的です。

原価率を試算してみる

大丸松坂屋のサブスクモデルの採算を、以下のような前提条件で検討してみましょう。

(1)商品1点あたりの標準小売価格:ブランドによって幅(5万円から20万円程度)はあるが、ユーザーは同じ会費なら高い価格帯の衣料品を選ぶ可能性が高いので平均小売価格を10万円
(2)商品原価率:買い切りなので50%
(3)回転率:1カ月に上限3点なので、平均的にユーザーは1週間着用した上で返送。大丸松坂屋はクリーニングを実施した上で別のユーザーに送付。7日着用+送付・返送・クリーニングに3日間かかるとして、1点当たりの回転期間は10日間なので回転率は月3回
(4)商品の耐用期間:季節性そしてファッション性が比較的高い商品なので、耐用期間は1年当たり3か月間で2年間使用
(5)稼働率:商品とユーザー特性によるが100%

衣料品の原価に送料やクリーニング費用を加えた「衣料品提供にかかるコスト」を、ユーザーの利用状況に関する要素で割り算をすると、1人の会員に対する原価率が試算できます。原価率が高いほど、事業者にとって採算性は厳しいわけです。

標準シナリオで、原価率は77%で物品小売業として若干低いものの、まずまずの原価率です。さらに顧客の注文する商品単価が1割高くなると、原価率は約85%に上昇。もしくは品ぞろえを増やして稼働率が下がっても原価率は上昇します。両方が見通しより1割ずつズレた(単価は上昇、稼働率は低下)とすると、原価率94%と極めて厳しい採算性になってしまうのです。

「規模の経済」が効きにくい事業

ソフトウエアや動画配信等におけるサブスクモデルでは、売上原価は固定費(ソフトウエアの開発費やコンテンツの獲得費など)であることが多く、このためユーザー数が増えても原価そのものは大きく増加しないので「規模の経済」が発生します。ユーザー数が増加すればするほど、原価率は大きく低下していき、利益が大きく出やすくなります。

しかし、衣料品のサブスクではユーザー数が増えれば、それに比例して衣料品の仕入れ点数も増加することから、規模の経済が効きにくい事業といえます。今回のサービスが提供するブランド衣料品は季節性やファッション性の高い商品であり、ユーザーの嗜好をいかにして的確に把握できるかがポイントとなります。

高価格衣料品のサブスクは、あるブランドを試しに着ることで百貨店への来店につなげたり、ブランドのファンを育てたりする入り口のようなサービスとも考えられます。それでも、単独の事業として採算が合わないようでは、長続きできないかもしれません。

ユーザーが選択するブランドと衣料品、そして平均単価を的確に予測しながら適切な品ぞろえができるかどうか。結果として、いかに高い水準の稼働率にできるか。どれもバランス良く維持する仕組みづくりができないと、採算に合わなくなるリスクは高いといえるでしょう。

さいとう・ただひさ
グロービス経営大学院教授。銀行からコンサルティングファームに出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。その後、音響機器メーカーの取締役最高財務責任者(CFO)と米国持ち株子会社の副社長兼CFO、米国通信系ベンチャーの日本法人代表取締役社長、エンターテインメント系ベンチャーの専務取締役、東証1部のモバイル向けコンテンツ配信企業で取締役兼執行役員専務CFOを歴任。

「サブスクリプション」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/298902e0(グロービス学び放題のサイトに飛びます)

ビジネススキルをもっと学びたい方はこちら

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

日経産業新聞をPC・スマホで!

スタートアップに関する連載や、業種別の最新動向をまとめ読みできる「日経産業新聞」が、PC・スマホ・タブレット全てのデバイスから閲覧できます。直近30日分の紙面イメージを閲覧でき、横書きのテキストに切り替えて読むこともできます。初めての方は、まずは1カ月無料体験!

日経産業新聞をPC・スマホで!

スタートアップに関する連載や、業種別の最新動向をまとめ読みできる「日経産業新聞」が、PC・スマホ・タブレット全てのデバイスから閲覧できます。直近30日分の紙面イメージを閲覧でき、横書きのテキストに切り替えて読むこともできます。初めての方は、まずは1カ月無料体験!

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン