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自動車業界を創造的破壊 米巨大ITの次の挑戦

米国の巨大テック企業が自動車分野での技術開発に力を入れている
CBINSIGHTS
米巨大テック企業が自動車産業への参入に向けた技術開発を進め注目が高まっている。米アマゾン・ドット・コムは自動運転スタートアップの買収などで配送への活用を狙い、米アップルも自動運転の実験を通じて車業界への進出がうわさされる。IT(情報技術)企業の参入は既存の大手自動車メーカーを中心とする産業構造へのディスラプション(創造的破壊)をもたらす可能性を秘めている。

自動車業界では地殻変動が起きている。自動運転、コネクテッド、シェアリングサービス、自動車販売のデジタル化は軒並み業界の既存プレーヤーに新たな試練を突き付けている。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

これを受け、米巨大テック5社「FAMGA=フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、グーグル(アルファベット)、アップル」はソフトウエアの開発やクラウドコンピューティングでの強みの活用に力を入れ、基本システム(OS)をコネクテッドカー(つながる車)に統合している。

さらに、自動車やモビリティー(移動)分野のスタートアップへの投資も進めている。

下の図は未公開市場での取引のみを示している。米アルファベットにはグーグルのほか、傘下の投資ファンドGV、キャピタルG、グラディエント・ベンチャーズも含まれる。アマゾンはアマゾン・アレクサ・ファンドも含む。

FAMGAによる自動車とモビリティー分野への投資(2015年~21年1月21日)

今回のリポートでは、巨大テック5社が下記のカテゴリーで(スタートアップへの投資などを通じて)自動車業界でのチャンスをいかにして探っているかについて分析する。

・自動運転技術 : 自動運転車を設計しているか、自動運転の総合システムや自動運転車の訓練・誘導を支援する部品(認識ソフトウエア、センサー機器、高精細マップ作製、シミュレーションなど)を開発している企業。

・コネクテッドカー技術、フリート(業務用自動車)管理 : 車に通信機能を持たせるソフトウエアやハードウエアのほか、コネクティビティー関連のアプリケーション(テレマティクスやメディア、路車間通信など)を開発しているスタートアップ。

・電気自動車(EV)向け技術 : EVやEV用バッテリー、充電インフラを開発している企業。

・自動車販売 : 乗用車やRV車、トラック、フリートのレンタルや販売、取引、購入を手掛ける企業。自動車金融会社や中古車オークションサービス、中古車の個人間売買のネット広告(クラシファイド)企業、ディーラー向けソフトウエアプラットフォーム(基盤)が含まれる。

・MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)、シェアリング : 人の移動手段を合理化するサービスを開発している企業。乗用車やマイクロ(小型)モビリティーのオンデマンドサービスや、公共交通機関を含む複数の交通手段を一つのサービスにまとめる企業などを含む。

アマゾン、電動化と自動運転への投資を強化

アマゾンはこの1年で自動車テックの主な勢力として台頭した。EVや自動運転技術を開発する企業の買収や投資を進め、音声アシスタント「アレクサ」を通じて車載通信のエコシステム(生態系)での存在感を一段と高めている。

完全電動の物流エコシステムの構築

アマゾンは特にEVの導入に力を入れている。2040年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言しており、EVの導入はこの目標を達成する上で非常に重要となる。

同社は米EVスタートアップのリヴィアン(Rivian)と緊密に連携している。リヴィアンはこの4年で87億ドルを調達した。アマゾンは20年7月の資金調達ラウンド(調達額25億ドル)や、21年1月のラウンド(27億ドル)などリヴィアンの複数のラウンドに参加している。

両社は20年10月、リヴィアンがアマゾンの物流網向けに開発したEV配送バンを発表した。このバンにはセンサーによる検知機能や、高速道路や渋滞時などの走行支援技術、運転手が車外を360度確認できるカメラを搭載している。

アマゾンはバッテリーのリサイクルを手掛ける米レッドウッド・マテリアルズ(Redwood Materials)にも投資している(図には未記載)。詳細はまだ発表されていないが、アマゾンは物流車のEV移行に伴い、レッドウッドのリサイクル技術と回収サービスを活用することになりそうだ。

様々な輸送手段で自動運転を模索

アマゾンは物流拠点から家庭までの「ラストワンマイル」配送と配車サービスでの自動運転車のエコシステム構築に関心を示している。

同社は20年6月、自動運転技術を開発する米ズークス(Zoox)を買収した。ズークスはアマゾンが足を踏み入れていない乗用車を主に手掛けており、買収は意外な動きといえる。もっとも、アマゾンはいずれ有料のプライム会員を対象にした自動運転車での配車サービスや食品宅配サービスに乗り出す可能性がある。

ズークスは20年12月、自動運転タクシーを発表した。これは4人乗りの「馬車型」EVで、様々な方向に運転できる。

アマゾンが買収したズークスの自動運転タクシー

アマゾンはラストワンマイル配送では自動配達ロボット「スカウト」を開発している。大きさはクーラーボックスほどで、重さは約150ポンド(70キログラム弱)だ。人が歩く程度の速さで歩道を走行する。スカウトはカリフォルニア、ジョージア、テネシー、ワシントンなど米国内のいくつかの州で試験運用されている。

米アマゾンの自動配達ロボット「スカウト」(同社提供)

アマゾンは自動運転の配送バンやドローン(小型無人機)、無人受け取りロッカー、配達ロボットなど自動配送に関連するいくつかの特許も保有している。

車に音声を導入

アマゾンはアレクサを活用する分野を増やそうとしている。独アウディや独BMW、米フォード・モーター、トヨタ自動車などの自動車メーカーと提携し、各社の車にアレクサを搭載している。

車載音声アシスタントは従来、生産時点で車に組み込まなくてはならなかった。アマゾンは18年9月、後付け式の音声制御デバイス「エコー・オート」を発表し、これを変えた。エコー・オートはグーグルの「アンドロイドオート」やアップルの「カープレイ」とは違い、全てのスマートフォンに対応している。

グーグル親会社のアルファベット、自動運転でのリード維持

グーグル親会社のアルファベットは自動車分野で地位を確立している。傘下の自動運転技術開発会社、米ウェイモ(Waymo)は他社に先駆けて自動運転の商用車の展開を果たした。

ウェイモはグーグルのクラウドコンピューティングと地図作製能力を活用し、車の通信機能やモビリティーのシェアリングの機会も探っている。

自動運転を主導

ウェイモは自動運転分野にいち早く参入し、アルファベットの豊富な資金力も活用できることから、この分野の業界リーダーとみなされている。

ウェイモはアルファベットの多くの子会社が持つ重要技術も活用できる。特に注目すべきは、グーグルのオープンソースのソフトウエア基盤「テンサーフロー」の人工知能(AI)向け半導体「TPU(テンサー・プロセッシング・ユニット)」を使ってニューラルネットワーク(脳の神経を模した回路)を訓練できる点だ。ソフトウエアとセンサーを自前で開発しており、外部サプライヤーへの依存度も低い。このため、効率的で統合性が高いと強調している。

19年には逆風に見舞われたが、ここにきて勢いを盛り返している。20年には32億ドルを調達し、独ダイムラーやスウェーデンのボルボ・カーなど自動車メーカーとの大型提携を発表した。

最近は20年10月にアリゾナ州フェニックスで手掛けている配車サービスを拡大したほか、21年2月にサンフランシスコで自動運転車の試験走行に乗り出した。

ウェイモの自動運転車

モバイルOSやクラウドの強みを活用

車の通信機能の進化に伴い、ソフトウエアは重要な部品になりつつある。

自動車メーカー各社が開発したソフトウエア、特に車載インフォテインメント(情報娯楽)システムは運転手や乗客にとって操作しづらいことが多かった。そこで、グーグルなどのテック各社は車載インフォテインメントソフトの開発に挑んでいる。

グーグルは「アンドロイドオート」によって、モバイル向けプラットフォーム「アンドロイド」を自動車に組み込むことができるようにした。これによりアンドロイド利用者は自分の車のインフォテインメントセンターでモバイルOSを閲覧できるようになり、連絡をとったり、音楽を流したりするといった機能が使いやすくなった。

グーグルはこのほど、音声アシスタント「グーグル・アシスタント」をアンドロイドオートに対応させ、利用者が運転中にグーグル・アシスタントを使えるようにした。アップルやアマゾンからの攻勢に対抗し、様々なネット接続端末でのアンドロイドの利用を維持するのが狙いだ。

アンドロイドオートは現在、米ゼネラル・モーターズ(GM)や韓国の現代自動車、ボルボなどのブランドの計400車種以上で使われている。グーグルは21年2月、フォードとの6年間の提携を発表した。フォード車にアンドロイド技術を搭載し、フォードの工場にクラウドサービスを提供する。

シェアリングにも投資

アルファベットはモビリティーサービスにも投資している。地図作製分野で圧倒的な存在であることを考えれば、当然の動きだ。

アルファベットは20年5月、電動キックスケーターのシェアを手掛けるユニコーン(企業価値が10億ドルを超える未上場企業)、米ライム(Lime)のシリーズE(1億7000万ドル)に参加した。グーグルも19年にインドネシアの配車大手ゴジェック(Gojek)のシリーズF(10億ドル)に出資し、海外でのシェアサービスに投資した。

アルファベットはロボタクシーサービスの拡大を計画しており、こうした投資が将来役立つだろう。

アップル、噂されていた自動車参入で注目

アップルはかねて自動車分野への本格参入を目指してきた。

同社は既にグーグルのアンドロイドオートと同様の車載システム「カープレイ」で、この分野に進出している。

だがここにきて量産車を一から開発する報道で注目を浴びている。

自動運転と電動化の機会を模索

アップルはほぼ10年前から自動車技術の開発に取り組んできた。14年には自動車技術の開発に取り組む「プロジェクト・タイタン」を立ち上げた。

まだ正式には発表していないが、昨年12月には個人向け乗用車の生産を計画していると報じられた。それ以降、アップルの提携候補を巡って観測が広がっている。

完成車の開発は大掛かりな事業であるため、アップルは自動運転ソフトの開発を優先する可能性がある。同社は数年前からカリフォルニア州で自動運転車の走行実験を実施しており、19年6月には米自動運転スタートアップのドライブ・エーアイ(Drive.ai)を買収した。ドライブ・エーアイはその後廃業した。

アップルは既存製品のバッテリー性能の改善に取り組んでおり、EVバッテリーの開発でも好位置に付けている。情報筋によるとアップルは電池の内容物を包むパウチやモジュールを使用せず、その分バッテリーパックのスペースが広がる「モノセル」設計の開発に取り組んでいる。これによりEVの航続距離を大幅に伸ばせる。

カープレイでiPhoneユーザーを囲い込み

アップルはスマートフォン「iPhone」の車載統合技術も開発している。カープレイはグーグルのアンドロイドオートと同様のシステムで、運転手や乗客は車載ディスプレーでメッセージや地図、音楽にアクセスできる。

アップルによると、全ての大手自動車メーカーがカープレイを採用し、いくつかの後付けのヘッドホンやドングルも対応している。

マイクロソフト、クラウドの強みを活用

マイクロソフト(MS)は自動車分野では主にコネクティビティーに携わっている。

同社は多くの自動車メーカーと提携し、自社のクラウドを使ったコネクテッドカー向け基盤を展開している。自動車業界でのクラウドやエッジコンピューティングの分野に対する専門知識の欠如を有効活用している。

MSは自動車やモビリティー分野で複合現実(MR)も展開する。大手自動車メーカー各社はMSの拡張現実(AR)/仮想現実(VR)製品を使って工場やディーラーでの効率を高めている。

つながる自動運転車の未来を可能に

MSはコネクティビティーの分野で比較的活発に活動している。日産やボルボ、トヨタなどの大手自動車メーカーと提携し、クラウド「アジュール」を活用したコネクテッドカー向け基盤を提供している。

直近では、GMと傘下の自動運転会社米クルーズ(Cruise)との戦略的提携を発表した。MSはクルーズの優先的なクラウドプロバイダーになる一方、クルーズはMSのクラウド基盤を使って自動運転技術の開発とロボタクシーサービスの展開を加速する。

MSは1月、GMやホンダと共にクルーズの資金調達ラウンド(20億ドル)に参加した。

MSはその数週間後、独フォルクスワーゲン(VW)との提携を自動運転開発に拡大することも発表した。これまでの提携分野はコネクティビティーに限られていた。

製造や設計でAR/VRを展開

多くの自動車メーカーが車の設計を容易にするためにARやVRを採用している。製品をつくらなくても設計プロセスを可視化できるため、新たなモデルや部品、車載機能の開発スピードを速められる。

フォードやボルボ、トヨタ、米大型トラックメーカーのパッカーはMSのゴーグル型端末「ホロレンズ」を導入している。技術者はこれを装着することで現実の既存資産に新たなコンセプトを重ねることができる。

各社はホロレンズを導入したことで、車内外の一定の部品を可視化したり操作したりし、個々の部品の構成を確認できるようになったとしている。

各社はディーラーやアフターサービスでもホロレンズを活用している。ディーラーでは最終製品による3次元の体験を顧客に提供できる。アフターサービスでは整備士の訓練に使える。

フェイスブック、周辺サービスで活動

フェイスブックの自動車分野での活動は著しく低調だ。

同社のシェリル・サンドバーグ最高執行責任者(COO)は17年9月の独フランクフルトモーターショーでの講演で「当社はシリコンバレーで車をつくっていない唯一の企業だ」と述べた。もっとも、自動車販売や地図作製、先進製造の様々な小さな機会を活用している。

フェイスブックは商取引の機会を積極的に探っている。これは自動車販売の戦略と足並みがそろっている。同社は既に個人間の中古品売買を仲介する「マーケットプレイス」で車を扱っており、自動車ディーラー向けのデジタル広告ツール(在庫水準に基づいた自動での広告配信)にも乗り出している。

地図作製もフェイスブックが関心を抱いている分野だ。20年6月にはスウェーデンのスタートアップ、マピラリー(Mapillary)を買収した。マーケットプレイスのテコ入れが買収の主な目的だが、いずれは貴重な地図作製データをモビリティーサービスに適用する可能性がある。

フェイスブックのVR事業(オキュラス)も自動車業界で使われる可能性がある。例えば、いくつかの自動車メーカーはディーラーでVRを使い、買い手に試乗体験やその場で別の機能をカスタマイズするサービスを提供している。

VRは設計や製造プロセスにも活用できる。自動車メーカーは試作車に変更を加える際、新たに実物大モデルをつくることなく車を可視化できる。

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