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Amazonも採用 次世代EC基盤「ヘッドレスコマース」

CBINSIGHTS
パソコン向けサイトを軸に発達してきた電子商取引(EC)技術が転換期を迎えている。多端末・多メディア時代の次世代EC技術「ヘッドレスコマース」が台頭。米アマゾン・ドット・コムや米ナイキなどがいち早く取り入れている。新しいデジタル機器・ネットサービスに迅速かつ柔軟に対応できるのが特徴で、音声での注文やSNS(交流サイト)からの直接購入などオンラインショッピングの多様化を技術面から後押ししている。

ECプラットフォーム(基盤)は増えており、パソコンからモバイル端末、スマートスピーカーに至るまで様々なデバイス(端末)で取引されるようになっている。だが、現行のECインフラはパソコンでの利用を念頭に置いて開発されていることが多い。ヘッドレスコマースはこうした状況を一変させる可能性がある。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

ヘッドレスコマースのシステム構造では、顧客と接する「カスタマーインターフェース」(フロントエンド)と、決済の処理や在庫の管理などの「プラットフォームのコアコマース機能」(バックエンド)が切り離されている。

文字による販売手法やワンクリック決済のような顧客とやり取りする機能をすぐ実装できるようにすることで、小売りやブランドが音声やチャット、モバイルなど新たなEC媒体を簡単に使えるようにする。米アマゾンはこれを活用し、有料のプライム会員にパソコン、モバイル、音声で一貫した買い物体験を提供している。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によるECの急拡大や、ブランドや小売りがデジタル販路の拡大に伴いサービスを向上させる必要性から、ヘッドレスコマースへの注目度はますます高まっている。

勢いを増すヘッドレスコマース 「ヘッドレスコマース」または「ヘッドレスアーキテクチャー」について言及している記事、2016~20年

今回の記事ではヘッドレスコマースのシステム構造、ブランドや小売りにもたらすメリット、次に適用される分野について取り上げる。

従来のシステムと何が違うのか

ECプラットフォームはそもそも長い間唯一の選択肢だったパソコン向けに開発され、バックエンドとフロントエンドが一体化した「一枚岩(モノリシック)」構造になっていた。だが、ここ10年でモバイルコマースが成長し、最近では他の形態のECも次々に登場しているため、ブランドや小売りはヘッドレスコマースのような柔軟性の高いアプローチを求めるようになっている。

ヘッドレスコマースのシステム構造が従来と違うのは、バックエンドとフロントエンドの構成要素が切り離されており、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース=システム同士が相互に連携するための技術仕様)を介してやり取りする点だ。

ヘッドレスコマースの構成要素

企業は顧客情報管理(CRM)システムなどバックエンドのデータベースを使い、商品に関する情報、販促や値引きの前提となるマーケティングロジック、決済などの機能を操作できる。

そのアウトプット――例えば商品の画像や価格、「今すぐ購入」ボタンなど――はAPIを介してユーザー体験(UX)などのフロントエンドに反映される。これにより企業は買い物客に対し、モバイルアプリや画像投稿サイト「インスタグラム」のショッピング機能、街頭や店舗などの情報端末(キオスク端末)での取引を簡単に提供できる。

ブランドや小売りにどんなメリットがあるのか

ヘッドレスコマースのメリットの一つは、ブランドや小売りがカスタマイズした円滑な買い物体験を顧客に提供できる点だ。これは顧客の取り込みや維持に役立つ。

ユーザー体験とナビゲーションの向上

売り手はヘッドレスコマースのようなAPIを活用した構造を採用することで、ウェブブラウザーが専用アプリのように動く「プログレッシブ・ウェブ・アプリ(PWA)」技術を使ったフロントエンド体験を簡単に提供できる。PWAはページの読み込み速度を大幅に上げるため、利用者の離脱率は大きく下がり、販売コンバージョン率(成約率)が高まる。米グーグルの調査によると、モバイルサイトでページの読み込みに3秒以上かかればユーザーの53%がサイトから離れる。これはブランドや小売りにとって売り上げ減少につながる。

さらに、ヘッドレスコマースでは同じ情報を様々なデバイスや状況で使うことや、最適化も可能になる。これはモバイルコマースで特に重要だ。

パソコン向けに開発された従来のECシステムはスマートフォン上でもパソコンと同じレイアウトを表示することが多く、買い物客は画面を拡大してコンテンツを読まなくてはならなかったり、「カートに入れる」ボタンがなかなか見つからなかったり、購入をあきらめたりする場合さえある。ヘッドレスコマースはバックエンドシステムの修正を気にせずに個々の媒体に応じた体験をつくり出せるため、もっと多様なデバイスやシナリオへの対応が可能になる。

デジタル体験の差別化と素早い展開

新型コロナの影響で精巧なECの提供が急増しており、差別化されたデジタル体験を提供することが顧客を取り込む上でますます重要になっている。

もっとも、ヘッドレスコマースを導入していればこれはさほど難しくないだろう。ヘッドレスコマースのシステム構成はいわばモジュール式で、売り手は新たなデジタル体験を簡単につくり出せるからだ。例えば、

・より多くの顧客接点にコマース機能を追加する : 顧客は今やソーシャルメディアやスマートウオッチ、コネクテッドカー(つながる車)などで買い物をしている。それぞれの媒体に微調整を施す必要はあるが、広く網を投げておけばより便利で優れた顧客体験を提供できる。

・様々な顧客接点でカスタマイズした買い物体験が可能になる : それぞれの接点のデータを連携できるため、顧客データへのアクセスと実用性が向上する。その結果、ブランドや小売りは予測分析をさらに生かせるようになる。

・新たなビジネスモデルの導入が進む : ECサイトのバックエンドのインフラを修正しなくても、個々のモジュールを修正するだけでサブスクリプション(定額課金)やレンタルなど流行のコマースを導入できる。

こうした顧客接点や機能を一部または全て提供している一体型のECプラットフォームもあるが、これを使っているブランドや小売りは将来生じる新たなコマース体験を統合できない可能性がある。ヘッドレスコマースのエンジンでは、開発部隊にバックエンドを変更してもらうことなくフロントエンドで新たな体験を試すことができる。このため新たな顧客接点への参入や、新しい買い物フローなどの「A/Bテスト(複数の案を同じ条件で実際に運用し、効果を測定すること)」にかかる時間を減らせる。

次の展開は

アマゾンや米ウォルマート、ナイキなど多くのブランドや小売りは既にヘッドレスコマースを採用している。これはモバイルサイトの最適化だけにとどまらず、大手小売り以外にも広く使われるようになるだろう。

オンラインのポップアップ店が拡大

ヘッドレスコマースを使えば新たなオンラインの顧客接点を簡単につくり出せる。ブランドや小売りはこの特性を生かし、リアルなポップアップストア(期間限定店)と同様にキャンペーンに特化した期間限定のECサイトや体験に乗り出すだろう。例えば、ヘッドレスコマースをいち早く導入した仏ロレアルの化粧品ブランド「ランコム」は2020年8月、シンガポールに初のオンラインポップアップ店を開設し、オンライン美容相談やライブストリーミング、限定ショップなどを提供した。

ローコード/ノーコードのサービスでヘッドレスを導入しやすく

カナダのショッピファイや米ビッグコマース、米マジェントなどECシステム大手は既にヘッドレスコマース機能の提供に乗り出している。だが多くは改造版であり、従来の一体型構造にヘッドレスのツールやモジュールを加えたシステムを提供しているため、メリットは限られ、コストがかかる大規模な開発部隊が必要になる。米ショーグン(Shogun)やカナダのコマースJS(Commerce.js)など最近資金調達を果たした一部のスタートアップは、開発者がいなくてもヘッドレスのフロントエンドを構築・最適化できるローコード/ノーコード(知識不要のアプリ開発)サービスを提供することで、特に中小企業を対象にヘッドレスコマースの導入を推進しようとしている。

法人向けECもヘッドレスに

コロナ禍でBtoB(企業向け)企業もオンライン取引を増やしており、独スプライカー(Spryker)など法人向けECシステムプロバイダーの需要が高まっている。ベルリンに拠点を置く同社は最近、1億3000万ドルの資金調達を果たした。同社はBtoB企業を対象に、見積もりや値引きの管理、法人ユーザーの認証、梱包・計測ユニットなど法人向け機能を備えたヘッドレス構造のEC構築を手掛けている。こうしたサービスは普及するだろう。米フェア(Faire)などの卸売プラットフォームの台頭で卸売業のEC移行が進んでおり、消費者向けECと同じ水準の利便性を求めるBtoB企業が増えているからだ。

ヘッドレスコマースはニューノーマルになるのか

ヘッドレスコマースは今後も勢いを増し、スマートウオッチや対話アプリ、フリマアプリのような複数の精巧なECチャネルへの参入を望み、その資金的余裕もあるブランドや小売りにとって主流のアプローチになるだろう。

現在は構築コストが高く、インフラの運営や修正に専用の技術部隊を抱える必要があるため、中小企業による導入は限定的だ。今後の中小勢の導入速度はローコード/ノーコードサービスの価格や使いやすさによって決まる。もっとも、導入した企業はアマゾンなどのEC大手と競争しやすくなったと感じるだろう。他社に先行するにはヘッドレスコマースを導入すべきだということになるかもしれない。

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