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世界の通信大手12社、スタートアップ投資を拡大

CBINSIGHTS
最も買収活動が活発なのは米ベライゾンだ
日本のNTTドコモや米ベライゾン、独ドイツテレコムなど世界の通信・メディア大手がスタートアップへの投資を拡大している。米グーグルなど巨大テック企業の買収攻勢に世界の当局が待ったをかける中、高速通信規格5Gの活況を背景に投資攻勢をかけている。投資先は、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT、サイバーセキュリティー、広告など多様だ。世界の通信・メディア大手12社の動向をCBインサイツがまとめた。

通信事業者は5Gに対応したインフラを展開すると同時に、5Gの恩恵を受けると見込まれる分野にも資金を投じている。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で5Gへの関心は一時的に落ち込み、2020年4~6月期に実施された決算発表での5Gへの言及回数は6四半期ぶりの低水準にとどまった。だが7~9月期にはパンデミック前の水準を回復し、5Gへの注目度が高いことを示した。実際には、新型コロナをきっかけに長期的に5Gへの需要は高まる可能性が高い。ロボットや動画など帯域幅を大量に消費する活動の導入が加速するからだ。

20年4~6月の決算発表での5Gへの言及回数は減少 (15年10~12月期から20年7~9月期まで)

世界の通信大手は5Gに引き続き関心を示しており、20年の投資活動は今のペースが続けば19年の水準を超える見通しだ。米Tモバイルは20年10月、「5Gイノベーション(技術革新)を加速させるため」、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立すると発表した。一方、スペインのテレフォニカはサイバーセキュリティー企業を対象にしたCVC「テレフォニカ・テック・ベンチャーズ」を立ち上げた。

こうした投資活動は業界の技術的変化に先行しようとする各社の思惑を反映している。ネットワークの構成や設定は従来のハードウエアからクラウドを活用したソフトウエアベースに置き換わりつつあり、インターネットに接続していない機器(冷蔵庫や産業機械など)はスマート化しつつある。

通信とIT(情報技術)の領域が重なるため、米グーグル、米アマゾン・ドット・コム、米マイクロソフトなどの巨大テック企業はエッジコンピューティングなどの分野では通信各社と提携に乗り出す一方、サイバーセキュリティーや広告、ネット接続などの分野では競合している。

今回のリポートでは通信業界の方向性を明らかにするため、CBインサイツのデータに基づいて世界の通信大手12社の最近の投資、買収、提携活動について調べた。

分析の対象にしたのは、時価総額が150億㌦を超える米AT&T、米コムキャスト、独ドイツテレコム、NTTドコモ、仏オレンジ、シンガポール・テレコム(シングテル)、スペインのテレフォニカ、米ベライゾン、英ボーダフォン、米TモバイルUS、韓国のSKテレコム、オーストラリアのテルストラの12社だ。

通信各社はどこに「投資」しているか

パンデミックを巡る不確実性にもかかわらず、通信大手12社の今年の投資活動は今のペースが続けば19年の水準を上回る。

19年以降に実施された200件近い投資のうち、中期または後期段階のスタートアップへの投資は3分の2に上り、米企業への投資は半数以上を占めた。2番目に多い投資先は日本、3番目はイスラエルで、両国企業への投資件数は全体の5分の1に及んだ。

20年に投資が最も活発だったのはコムキャストの24件で、NTTドコモが20件で続いた。ドイツテレコムの投資件数は10件だったが、投資額は計7億6500万㌦と最も多かった。

コムキャストが最も活発な投資家に

各社の戦略はそれぞれ異なるが、最近の投資、買収、提携トレンドは主に5つの分野に集約される。

・サイバーセキュリティー:ネットワークと、ネットワーク上で稼働する機器の安全を確保

・コンテンツ:顧客がアクセスするコンテンツ(ゲームやニュース、映画など)を開発

・広告:顧客のアクセスやデータを収益化

・IoT/エッジコンピューティング:予知保全やコネクテッドホームなどネット接続機器のユースケースを実現

・ビジュアルテクノロジー:動画や拡張現実(AR)など高速大容量で低遅延が求められる通信をサポート

主な投資例

サイバーセキュリティー:テルストラのCVCは20年7月、個人認証やアクセス管理プラットフォームを手掛ける米オースゼロ(Auth0)のシリーズF(調達額1億2000万㌦)に参加した。

コンテンツ:コムキャストとSKテレコムは19年10月、米韓のゲーム市場で収益を上げるため、9300万㌦を投じてeスポーツの合弁会社「SKテレコムCS T1(SK Telecom CS T1)」を設立した。

広告:ドイツテレコムのCVCは20年1月、インターネット広告分析サービスの米アップスフライヤー(AppsFlyer)が実施したシリーズD(2億1000万㌦)に参加した。

IoT/エッジコンピューティング:コムキャストのCVCは20年7月、IoTを活用した住宅保険を手掛ける米ヒッポ(Hippo)のシリーズE(1億5000万㌦)に参加した。

ビジュアルテクノロジー:NTTドコモは19年4月、AR/仮想現実(VR)のユニコーン(企業価値が10億㌦を超える未上場企業)の米マジックリープ(Magic Leap)に2億8000万㌦を出資した。

通信各社はどこを「買収」しているか

通信大手12社の買収件数は16年の28件が最高だった。20年は5年ぶりの低水準にとどまる見通しだ。

通信各社の中核事業である通信・ネットワーク構築を支える買収は全体の3分の1弱にとどまる。

買収活動が最も盛んなのはベライゾンで、15年以降に24社を買収している。2位以下はコムキャスト(19社)、オレンジ(16社)、AT&T(12社)の順に続く。NTTドコモは15年以降買収を1件も完了していない唯一の企業だった。

買収が最も活発なのはベライゾン (15年~20年10月23日)

主な買収例

サイバーセキュリティー:オレンジは19年5月、サイバーセキュリティーサービスを提供するスウェーデンのセキュアリンク(SecureLink)を5億7700万㌦で買収した。

コンテンツ:AT&Tによる米メディア大手タイムワーナーの854億㌦での超大型買収は18年、米規制当局に承認された。

広告:Tモバイルは19年7月、モバイル広告プラットフォームの米プッシュスプリング(PushSpring)を買収した。買収額は3200万㌦とされる。

IoT/エッジコンピューティング:コムキャストは16年6月、コネクテッドホームのセキュリティーを手掛ける米アイコントロール・ネットワークス(Icontrol Networks)を買収した。買収額は明らかにされていない。

ビジュアルテクノロジー:ベライゾンは20年4月、ビデオ会議サービスを運営する米ブルージーンズ(BlueJeans)を5億㌦で買収した。

通信各社はどこと「提携」しているか

通信大手同士の提携は18年に5年ぶりの高水準に達した。最も積極的に関係を築いているのはAT&Tとボーダフォンで、平均で年30件以上の提携を発表している。

通信各社は病院から自動車メーカーに至るまで様々な業界の企業と提携する一方、マイクロソフト、アマゾン、米グーグル、フェイスブック、米アップルの巨大テックとの提携強化も目指している。巨大テックのうち通信各社との提携に積極的なのはマイクロソフトとグーグルで、15年以降の提携件数はそれぞれ22件、15件に上る。

通信大手と巨大テックとの提携、19年にピーク (15年~20年10月23日の公表ベースでの提携件数)

巨大テックはVRや広告、サイバーセキュリティーでの活動が活発だが、通信各社との提携はエッジコンピューティング、特に5G関連が圧倒的に多い。

マイクロソフト、グーグル、アマゾンは19年、高信頼で低遅延の5Gの利用に対応するため、通信各社と提携して無線ネットワーク上にストレージやコンピューティングのリソースを配置し始めた。こうした取り組みには「ウェーブレングス(Wavelength、アマゾン)」「アジュール・エッジ・ゾーン(Azure Edge Zones、マイクロソフト)」「グローバル・モバイル・エッジ・クラウド(Global Mobile Edge Cloud、グーグル)」がある。

ソフトウエアでネットワークの構築ができるようになったのを受け、マイクロソフトやグーグル、アマゾンは自社クラウドのインフラやサービスの潜在需要の開拓も目指している。マイクロソフトは20年3月、通信各社を取り込むために仮想ネットワークのソフトウエアベンダー、米アファームド・ネットワークス(Affirmed Networks)を14億ドルで買収した。グーグルは同時期にネットワーク構築を手掛ける米アムドックス(Amdocs)や米ネットクラッカー(Netcraker)などとの提携を発表し、エッジ向けマルチクラウド管理プラットフォーム「Anthos for Telecom(アントス・フォー・テレコム)」を発表した。

クラウドサービス会社との提携が活発 (15年~20年10月23日)

主な提携例

サイバーセキュリティー:AT&Tは19年3月、世界の通信大手で構成する「グローバル・サイバーセキュリティー・アライアンス」に北米の通信事業者として初めて参加した。サイバー攻撃からの防衛力を高めるため、攻撃の脅威について情報を共有する。

コンテンツ:NTTドコモは19年2月、クラウドを使ったゲームサービスを手掛けるフィンランドのハッチ・エンターテインメント(Hatch Entertainment)と提携した。モバイル端末やアンドロイドTVを通じて日本の消費者にゲームを提供するのが狙いだ。

広告:ベライゾンは20年5月、データに基づいて地域や視聴者に応じたテレビCMを出稿する米アンパーサンド(Ampersand)との提携を発表した。アンパーサンドは光ファイバーを活用したベライゾンのテレビ配信サービス「フィオスTV(Fios TV)」の広告在庫を管理する。

IoT/エッジコンピューティング:グーグルとAT&Tは20年3月、AT&Tのエッジネットワーク接続とグーグルのクラウドサービス「グーグル・クラウド(Google Cloud)」を活用した法人向けサービスを開発すると発表した。

ビジュアルテクノロジー:ベライゾンは20年2月、米退役軍人病院に5GとARを活用した外科システムを提供するため、ARソフトウエアの米メディビス(Medivis)とマイクロソフトと提携した。

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