ChatGPTやWeb3は両刃の剣か 新井紀子さんらとThink!

日経電子版「Think!」は、各界のエキスパートが注目ニュースにひとこと解説を投稿する機能です。2月10〜17日の記事では、国立情報学研究所教授の新井紀子さんが「テック、鋭さ増す両刃の剣」を読み解きました。このほか「日銀総裁なぜ辞退」「宇宙最初期の銀河」といったテーマの記事に投稿が寄せられました。振り返ってみましょう。(投稿の引用部分はエキスパートの原文のままです)
「テック、鋭さ増す両刃の剣」をThink!


【新井紀子さんの投稿】ChatGPTを始めとする最先端テクノロジーを擁護する側は、「技術の進歩は早く、長期的には問題は解決される」と主張しがちだ。かつてミクロ経済学者たちとケインズの間で論争があったとき、ケインズが「長期的には私たちはみな死んでいる」と言ったことを思い起こさせる。問題は今まさにこの未熟なテクノロジーが世界を席巻しようとしていることと、それが引き起こすであろう問題を人間が解決するには、あまりにコストがかかることにある。場合によっては、民主主義のインフラが破壊され、取り返しがつかなくなる可能性がある。こういうとき、立法力が極めて弱い日本はなすすべがない。EUの老獪な知恵に期待する以外にないのか。
「日銀総裁なぜ辞退」をThink!


【村上芽さんの投稿】中央銀行のトップ人事の世界標準、というフレーズから思いつくのは、文中にはありませんがマーク・カーニー氏です。民間投資銀出身で、2008-13年までカナダ銀行総裁、2013‐20年までイングランド銀行総裁、そしてその間、「金融安定と気候変動」に焦点をあて、いまのTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の生みの親です。イングランド銀行総裁の時に、化石燃料への投資が「座礁」するリスクについて警鐘を鳴らしたスピーチは印象的でした。日銀の総裁にもそういう顔を(いずれ)期待したいです。
「宇宙最初期の銀河」をThink!


【山崎直子さんの投稿】138億年の宇宙の歴史に、後わずか数億年まで観測が迫ってきていることを、とても感慨深く思います。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAが主導し、欧州及びカナダが参加する赤外線観測宇宙望遠鏡ですが、日本も、NASAや欧州と連携しながら、X線天文衛星XRISMを2023年度に打ち上げる予定です。X線分光器により、銀河団を満たす高温プラズマの流れを観測できると、銀河や銀河団がどう創られていったのかの解明につながります。両者の知見をお互いに補完していくことで、初期宇宙の様子がどんどんと解明されていくことに期待しています。
「中国の気球を撃墜」をThink!


【益尾知佐子さんの投稿】気球は突然注目を集め、軍事用途が取り沙汰されていますが、少し冷静に分析する必要があります。衛星に限らずさまざまな手段を使って地球周辺(陸、深海を含む海、空、宇宙)からデータを集め、ビッグデータを育てようという中国の試みは、少なくとも5年くらいの歴史があります。次世代の国際秩序を形作る技術基盤を西側より先に固めることが目的なので、用途は軍事に限りません。中国の総合的性格を理解すべきです。なお、海と陸のデータは取り方が違い、気球と南シナ海はおそらくほとんど関係しません。南シナ海に関しては海底のセンサー網の方が重要です。中国は浮動式の原子力発電所を稼働し、これを安定的に運用しようとしています。
「東京電力に緊急融資」をThink!


【諸富徹さんの投稿】東電を経営危機に陥れている化石燃料の価格高騰は、一過性といえるだろうか。たしかにピーク時から落ち着いてきたが、最新のレポートでIEAは、少なくとも2025年まで、化石燃料価格が歴史的平均値を上回ると予測している。これは供給制約、パンデミック後の需要増、サプライチェーンの混乱といった要因が簡単には収まらないからだ。だとすれば、今回の緊急融資も1回限りで済むのか、疑問だ。根本原因は、東電に限らず日本の電力会社の極端な化石燃料依存体質にある(東電で77%、全国で71%、2021年)。これを根本的に改めない限り、継続的な料金値上げが不可避となり、とても企業も消費者も耐えられるものではなくなるだろう。
「豊田章一郎さんの歩み」をThink!


【渡部恒雄さんの投稿】私はトヨタが100%基金を出資している米国のCSIS(戦略国際問題研究所)ジャパンチェアに1995年から2005年まで勤務しておりました。その頃、日米貿易摩擦が続いていたワシントンDCで、豊田章一郎氏のスピーチを生でお聞きする機会がありました。その際に、エジソンなどのアメリカの起業家精神を例に挙げ、米企業が日本からの自動車の輸入規制などの政治にばかりエネルギーを割き、自らの自動車の技術向上に努力をしない姿に苦言を呈しました。私は感服する一方、政治問題にならないかを心配しましたが、大きな問題にはなりませんでした。米国人も、豊田章一郎氏に一目置き、尊敬していたからでしょう。合掌
【投稿一覧】
https://r.nikkei.com/topics/topic_expert_EVP00000
【エキスパート紹介】
https://www.nikkei.com/think-all-experts

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