コロナが促す大転職時代 人材移動こそ革新の勝機 - 日本経済新聞
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コロナが促す大転職時代 人材移動こそ革新の勝機

成長の未来図③

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I Quit.(私は辞めた)――。米国のSNS(交流サイト)で「退職宣言」があふれている。新型コロナウイルス禍を経て現在の働き方に矛盾を感じ、転職を考える人が増えているためだ。コロナ禍が促す人材の流動化は生産性向上やイノベーションの創出を後押しすることになりそうだ。

ニューヨーク在住で投資銀行などに勤めていたビンセント・チャンさん(26)は2020年秋に独立した。金融知識を生かして個人投資家向けに教材を作る事業を始め、今では収入が社員時代を上回る。「年収12万ドルの仕事を辞めた理由」を語った動画の再生は170万回を超え、転職を考える人たちの共感を呼ぶ。

自ら離職が最多

米国の自発的離職者数(非農業部門)は21年9月に過去最高の436万人に達し、就業者の3%にのぼった。金融情報の米バンクレートが実施した21年夏の調査では55%の人が1年以内の転職を検討中と答えた。

テキサスA&M大のアンソニー・クロッツ准教授は現状を「The Great Resignation(大退職時代)」と名付けた。「多くの人が自分に合った仕事に軸足を移せるように新しいスキルを習得している」と指摘する。

人材の流動化は米経済のダイナミズムを支えてきた。08年のリーマン・ショックでは金融機関を退職した人がフィンテック企業の興隆の原動力になった。08年10月以降の5年間のニューヨーク州の産業別雇用をみると、金融・保険は1.4万人の流出超過だったのに対し情報産業は8千人強の流入超過。経済危機で加速する人材移動がイノベーションを生んだ。

日本にはそういったエネルギーが乏しい。終身雇用を前提にした雇用体系は技術の進化などに対応できない人材の「社内失業」を増やし、企業収益を停滞させる。デジタルスキルを持つ人材へのニーズは高まるものの、日本企業の人事制度では報酬の引き上げに限度がある。それが全体的な賃金の伸び悩みを招き、成長分野への人材シフトもなかなか進まない。

サントリーホールディングスの新浪剛史社長が「45歳定年」を提唱すると「体のいい中高年のリストラ策だ」と批判が殺到。雇用の安全への強い意識が日本の変革を阻む。安心網を構築すれば日本でも流動化を促すことは可能なはずだ。

飲食からAT&Tへ

デンマークはすでに仕組みを作っている。コペンハーゲン市に住むキアステン・コーフィクスさん(57)は人生で3回、社会人教育を受けた。

レストランに就職した後、政府から1カ月に約5000クローネ(約9万円)の補助を受けコンピューターを勉強。28歳で米AT&Tに転職した。体を壊すと疾病プログラムで支援を受けて学び直し、教師を経て今はスピーチセラピスト(言語聴覚士)として働く。

デンマークでは各地に地方自治体が主体の職業訓練学校があり、企業と労組が協議して決める実用的なカリキュラムを受けられる。「税金が高いと言われるけど貧しい人もチャンスが得られる」(コーフィクスさん)

デンマークの1人あたり労働生産性は10.2万ドルと米国(12.6万ドル)を下回る一方、時間あたりでは74.7ドルと米国(72.1ドル)を上回る。今や日本よりも1人あたりの年間労働時間の多い米国に対し、生活と仕事を両立させるのがデンマーク流といえる。

人材の流動性が高ければ経済全体でみた適材適所の人材の再配置につなげやすい。働き手一人ひとりがスキルを磨き力を十分に発揮できる環境を整えられるか。再挑戦をしやすくする仕組みを本気で作らない限り貴重な能力も時間も死蔵されてしまう。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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成長の未来図

新型コロナウイルス禍の先に景気後退の足音が近づく。人口の少ない北欧諸国には限られた人的資源を最大限活用しないと生き残れないという危機感がある。「成長の未来図」第3部では北欧の現場から日本が進むべき道のヒントを探る。

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