[社説]「膨張慣れ」を脱して歳出改革を進めよ

2023年度の予算編成が始まった。一般会計の概算要求は総額で110兆円台と前年度に次ぐ2番目の水準だが、安全保障など目下は金額を示さない要求の項目が前年度の3倍に増え、歳出拡大の圧力はむしろ高まっている。
ウクライナ危機や中国の脅威など新たに政策対応が必要な要素は多い。だからこそ次世代の負担も考えて財政規律を保つことが不可欠だ。新型コロナウイルス禍で定着した「膨張慣れ」を脱し、歳出改革を徹底する必要がある。
社会保障費の増加で厚生労働省が22年度を実質的に2%近く上回る33兆2644億円、厳しさを増す安全保障環境を踏まえて防衛省が過去最大の5兆5947億円をそれぞれ要求した。数字の上限がない「事項要求」も目白押しで、全体の規模が見えない。
長射程のミサイル、食料安全保障、新型コロナ対応やグリーン・トランスフォーメーション(GX)の推進と、各省庁は岸田政権が重視する政策で事項要求を多用した。情勢の変化が見通しにくいといった事情はあるが、予算編成の透明性は下がっている。
例年の予算編成で財務省が設ける重点化のための特別枠も、政権の看板政策への便乗やマンネリ化がみられる。緊急のコロナ対策で巨額の財政出動と国債の増発が続き、それに慣れてしまった部分もあるのではないか。
新たな歳出の必要があれば、不要不急の歳出を見直すか、税など歳入を増やして手当てするのが財政規律を保つ原則だ。経済の成長や社会の安定に必要な予算を重点化し、効果の乏しいものは削る。社会保障の給付と負担の見直しなどの制度改革はもちろん、細部に至る地道な見直しが必須だ。
財務省は省庁に政策目的を達成する道筋の明示を求める取り組みを試行的に始めた。根拠と有効性を徹底して洗い直してほしい。
22年度予算では新型コロナ対応で5兆円の予備費を計上し、補正予算で積み増した。閣議決定で使途を定め、国会の監視が届きにくい予備費の膨張も問題だ。21年度は予算計上しながら使わなかったり22年度に繰り越したりした「使い残し」が28兆円もあった。規模ありきの対応を改めるべきだ。
政府の「賢い支出」で民間の技術開発や新市場の開拓を促し、経済を活性化する。中長期で持続可能な財政を将来世代に残す。そんな路線を徹底する必要がある。