[社説]許されぬ経営幹部の秘密漏洩

回転ずし大手「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトの田辺公己社長が、不正競争防止法違反容疑で警視庁に逮捕された。
転職前に勤めていた競合企業から営業秘密を持ち出した疑いが持たれている。上場企業のトップが営業秘密漏洩の疑いで逮捕されるのは異例で、容疑が事実なら同社の経営姿勢も問われる。捜査の進展を注視したい。
田辺社長は2020年に外食最大手ゼンショーホールディングスからカッパ社に移り、顧問と副社長を経て社長に就いた。この際、ゼンショーの100%子会社「はま寿司」の仕入れ価格などのデータを不正に持ち出したとされる。
外食業界でも回転ずしは原価率が高く、良質な素材を安く仕入れることで競争力を上げることができる。近年は競争が激しくなり、仕入れ先や取引条件についての情報は経営を左右する。
新型コロナウイルスの影響や原材料費の値上げで、外食各社は深刻な打撃を受けている。だからといって、不正な手段によって業績を上げようとしたのであれば言語道断である。入手したデータをどのように利用したかなど会社として説明すべきであろう。
営業秘密をめぐる事件は後を絶たない。14年には東芝の半導体メモリーの研究データ漏洩が発覚した。その後も積水化学工業やソフトバンクの元社員が摘発された。政府は罰則強化などの対策を講じているものの、完全に防ぐのは難しい。
人材の流動化が進み、社員の転職や社外から経営幹部を招くことは珍しくなくなった。そのことは歓迎すべきだが、一方で情報が流出するリスクは増す。情報管理はコンプライアンス(法令順守)の重要な要素になっている。
企業は社内の体制をあらためて点検し、重要情報にアクセスできる人を制限したり、退職時に不正な情報持ち出しがないかのチェックを徹底したりする必要がある。それは経営幹部であっても例外ではない。