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民意は選び方で変化する 多数決にも様々な方法が

上級論説委員 大石 格 

11月3日、米大統領選で、フロリダ州の投票所で投票する有権者(AP=共同)

今年の米大統領選は大勢判明に時間がかかったため、米国のわかりにくい選挙の仕組みが日本でもかなり知られるようになった。

「選挙人が20人のペンシルベニア州の勝敗が決まらないと……」「いや、バイデン氏はアリゾナ州の11人とネバダ州の6人を取れば、ペンシルベニア州抜きでも勝てる」

ふつうのサラリーマンらしき人が駅のホームで論じ合うのに何度か出くわした。

詳しくなるにつれ、獲得した票を州の枠を取り払って全国単位で数え、その多寡で勝敗を決めた方が公正だと思われた方も少なくあるまい。民主党のバイデン候補と共和党のトランプ大統領の得票差は600万票を超えた。単純集計ならば、投票終了と同時に当確を打てただろう。

1992年以降の8回の大統領選で共和党が多数の票を得たのは2004年の1回だけだ。にもかかわらず、最終結果は民主党5勝、共和党3勝となっている。すべては、州ごとの選挙人総取りという特異なルールのなせるわざである。

どうすれば民意を満遍なくすくい取れるのか。民主主義が生まれて以来、人類はこの難題に取り組んできた。坂井豊貴著「多数決を疑う」は、さまざまな選び方を紹介している。例えば、18世紀の数学者ボルダが編み出した順位付け方式だ。

有権者21人の選挙に3人が立候補し、Xが8票、Yが7票、Zが6票を獲得した。ふつうの多数決ならば、Xの勝利で決まりである。

だが、よく考えるとXを推さなかった人の方が多数である。選ばれたリーダーがしばしば批判の嵐にさらされるのは、こうした矛盾があるからだ。ボルダは好ましい順に3点、2点、1点を投じる方式を提唱した。

Xは8人から3点をもらっても、残る13人から1点ずつしか得られないと合計は37点にとどまる。Zは6人から3点をもらったうえで、残る15人から2点ずつ得られれば合計は48点で逆転できる。米プロスポーツのMVP投票は大抵このやり方である。

国政選挙ではオーストラリアやスロベニアが優先順位付きの投票を実施している。採用国がいま一歩増えないのは集計に時間がかかることが好まれなかったからだ。

それでも世界を見回すと、タッチパネル投票の国が増えている。データを電子集計すれば、ひとり1票方式と比べても時差なく結果を出せる。デジタル化時代の到来で、選挙もこれまでより複雑な選択方式を導入し、きめ細かく民意を反映できる環境が整いつつあるわけだ。

政治学では、世論調査などで有権者の政治家や政策への嗜好を把握し、どう組み合わせれば誰も損をしない「パレート最適」な政権や政策の選択ができるのかという研究が進む。実際の選挙や国民投票で実行すれば、勘に頼らずにベンサムの「最大多数の最大幸福」を見いだせる。

エリック・A・ポズナー、E・グレン・ワイル著「ラディカル・マーケット」は、そのための具体策として、ボイスクレジットという仕組みを挙げている。選挙や国民投票の際、国民は一定数のクレジットを受け取る。1クレジットは1票と交換できるが、2票ほしいときは2クレジットではなく、その2乗の4クレジットを支払わなくてはならない。3票だと、9クレジットが必要である。

多くの選択肢に1票ずつ投じるのもありだし、ひとつに絞って全クレジットをつぎ込むのもありだ。特定の選択肢にだけ関心がある人々が組織票を入れようとしても、2乗ルールがあるから、過剰な偏りにはならない。ちなみに、ここでいうラディカルは「過激」と「平方根」のふたつの意味を掛けている。

ひとり1票という伝統的な選挙制度では選好の強弱を反映できず、本当の民意を知ることができない。ボルダと同時代の数学者コンドルセがこう指摘してから200年以上がたった。

選び方を変えれば見える民意が変わるかもしれない。デジタル化に熱心な菅内閣が生まれたいまこそ、日本でもこうした論議を盛り上げたい。

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