[社説]待機児童減は単なる通過点だ

希望しても保育所などに入れない待機児童の数が今春、3000人を割り込み、過去最少となった。5年前の2017年に比べ、9分の1の水準だ。
保育サービスを増やした効果は大きいだろう。一部の認可外を含めた「保育の受け皿」は約323万人分まで増えた。申込者数は約281万人で、2年連続で減少している。計画上は23年の春には待機児童がゼロになるという。
ただし、保育の問題はこれで一段落した、と考えるのは早計だ。特定の園を希望し断られ入園できないなどの「隠れ待機児童」は約6万人いる。4月ではなく年度途中に入りたいという人や、新型コロナの影響で一時的に利用を控えている人も含まれない。
25~44歳の女性の就業率は上昇傾向にあり、フルタイムの共働き夫婦の割合も高まっている。にもかかわらず、申し込みの実数が減ったのは、子どもの数自体が急減しているのが大きい。少子化によって待機児童問題が解消するようでは、本末転倒だ。
いつでも必要に応じて児童が通い、安心して過ごせる場所が身近にある。それでこそ、少子化対策や女性の就労支援に有効だ。
今後、パートへの社会保険適用拡大などで本格的に働く人が増えることも予想される。自治体は安易な設置見送りや統廃合に走ることなく、子どもを育てつつ働きたいという女性の意欲を抑えないようにしてほしい。
そのうえで、やるべきことはさらにある。保育所は子どもが日々成長する大切な場だ。低く抑えられてきた保育士の数を増やすなどして、子どもへの細かい目配りができる環境を整えてほしい。
働く親だけに限らず、地域のすべての親子に開かれた場所にすることも課題だ。保育所にも幼稚園にも通わず孤立している親子は、少なくない。育児の相談に乗ったり、定期的に預かったりすることで、子育てに寄り添いたい。質の高い保育の拡充に向け、今こそ正面から向き合うときだ。