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[社説]中国は拘束日本人を直ちに解放すべきだ

中国当局が北京に駐在する大手製薬会社の日本人男性社員を拘束した。「スパイ活動に従事し、中国の刑法と反スパイ法に違反した疑い」としている。だが、中国側は過去の拘束例を含め、具体的にどのような行為が法に触れるのか明示していない。極めて不透明な運用といわざるをえない。中国は直ちに男性を解放すべきだ。

中国の習近平政権は、反スパイ法の施行などにより、「国家安全」を名目にした外国人取り締まりを一貫して強化してきた。2015年以降、スパイ活動に関わったなどとして拘束された日本人は、地質調査会社や大手商社の社員、大学の研究者ら少なくとも17人が確認されている。

最大の問題は中国側のいう「国家安全」の概念と線引きが曖昧な点だ。日本を含む外国企業が中国に駐在や出張で人員を送る際、安全確保に向け対策を立てようにも効果的な方法は見当たらない。

いつ、どこで突然、拘束されるか分からない巨大な不安がある以上、中国への人員派遣を控えるしかなくなる。これは中長期的に日中貿易や対中投資の減少につながりかねない。安定的な経済成長を目指す中国にとっても大きなマイナスだ。由々しき事態である。

10年には、尖閣諸島沖の漁船衝突事故で海上保安庁が中国人船長を逮捕した後、建設会社であるフジタの社員ら4人が河北省で突如、拘束された。これは日中関係の悪化が招いた事実上の報復だったとの見方が多い。似たケースは近年、日本以外の国との関係悪化でも起きている。

今回、拘束された日本人男性はアステラス製薬の現地法人幹部で、中国駐在歴が20年以上というベテラン社員だった。現地企業でつくる中国日本商会で幹部職を務めた経歴もあり、いわば中国通だ。

業務の範囲内で中国の政府や国有企業の関係者と接触する機会も多かったと考えられる。異動による日本への帰国直前、急に連絡が途絶えてしまったという。中国に関わる日本企業が受けた衝撃は計り知れない。

今年は日中平和友好条約の締結から45周年の記念すべき年だ。だが、安全保障面での日中の確執が、民間企業を主体とする経済・貿易関係にまで波及しつつある。望ましい姿ではない。悪循環を断ち切るためにも、日本政府は男性の速やかな解放に向けて、あらゆる手段をとる必要がある。

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