[社説]ESG投資の健全な発展を世界で促そう

米議会で企業年金運用にESG(環境・社会・企業統治)要素を加えることを禁じる共和党主導の決議が成立し、民主党のバイデン大統領が政権発足後、初の拒否権を行使した。株式投資のリスクとリターンは必要に応じて、ESG要素も加えて分析すべきだという大統領の判断は支持できる。
米国の市場規制は欧州やアジアにも強く影響する。今回の拒否権行使がもつ意味をきちんと受けとめ、ESG投資の健全な発展を世界全体で促していきたい。
脱炭素や人権問題への取り組みを考慮するESG投資は、2006年の国連の責任投資原則で提唱された。企業を長期の視点で評価する重要な手立てであり、温暖化ガス排出の実質ゼロを目指すための推進力にもなる。
米国ではESG投資を巡って賛否の議論が続く。野党の共和党が民主党を攻撃する材料にするなど、政治問題化も目立つ。
実際、企業の環境・社会面への評価が株式投資のリターンに良い影響を与えるかどうかについては様々な分析がある。運用成績の検証を重ねて実績を示すことが、ESG投資の普及に欠かせない。
ESG投資の質を高め、疑念を払拭していく努力も必要だ。全世界で35兆ドル(約4600兆円)に達するESG投資には、本当に企業の環境・社会問題への取り組みを評価しているのかが疑わしいものも一部にあると指摘される。こうした偽装を放置していれば信頼が下がり、ESGはブームに終わってしまう。
欧州連合(EU)を中心に、資産運用会社が投資先の温暖化ガス排出量の開示などを求められるようになった。これを受けESGを掲げる投資信託の設定は減少しているという。厳しい条件でESGの偽装がしにくくなった結果ならば、むしろ望ましい動きだ。
運用会社に資金を託す年金基金も、本物のESG運用を見きわめる力をつけなければならない。そうでなければ年金受給者である国民への責任を果たせない。
ESG運用の重点は脱炭素から生物多様性の保全や発展途上国の人権保護などにも広がってきた。運用に必要とされる知見も多岐にわたるようになった。
欧米の年金や運用会社は、自然・人権保護団体との協力を進める。ESG投資に取り組むのであれば当然の対応といえる。日本勢もさらに専門性を磨いてほしい。