[社説]防衛産業の基盤強化へ有効な対策を

政府が国内防衛産業の基盤強化に乗り出している。日本の安全を守るには自衛隊の能力向上に加え、有事に必要な装備品や弾薬などを自給できる体制が極めて重要となる。国内企業の防衛事業からの撤退が相次ぐ現状に歯止めをかける有効な対策が求められる。
政府は昨年末に国家安全保障戦略など安保関連3文書を改定し、防衛力の抜本的強化に着手した。
新たな防衛力整備計画は「いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤」の項目を設け、防衛産業の課題として①収益性の低さ②販路が自衛隊に限られる③サイバー攻撃など様々なリスクの顕在化――を列挙した。
過去20年間に防衛事業から撤退した国内企業は100社を超え、さらに大手メーカーでも規模縮小や撤退の動きがある。関係者によれば装備品の契約時の利益率は7〜8%前後だが、納入までに物価上昇や納期遅れなどの影響を受け、実績ベースの営業利益率が2〜3%の例も珍しくないという。
欧米の防衛産業には長期契約の仕組みを有効に活用し、10%程度の利益率を維持する大手メーカーがある。安定的な人材育成や生産ラインの維持、研究開発力の向上には契約方法の柔軟化と利益率の改善が急務だ。
防衛産業は外部の目が届きにくく、過去には企業談合や汚職事件の温床にもなった。契約の公正さと一定の透明性を担保する新たなルールが必要となる。
海外への販路拡大も課題だ。政府は2014年に「防衛装備移転三原則」を閣議決定し、武器輸出を原則禁じてきたルールを見直した。しかし完成品の輸出はこれまでフィリピン国防省との警戒管制レーダー(4基で約1億ドル)の契約のみにとどまっている。
政府は装備品の移転推進に向け、官民連携の強化や基金創設を打ち出した。用途を「救難、輸送、警戒、監視、掃海」に限定してきた条件の緩和を検討中だ。戦後の平和国家としての歩みと矛盾しない形で、友好国への輸出をどこまで認めるかが焦点となる。
ロシアのウクライナ侵攻では、米国など西側諸国が装備品や弾薬などをウクライナに積極支援している。日本は有事において海外からの陸路の輸送には頼れず、重要物資の備蓄と国内調達が死活的に重要だ。与野党は日本の安全保障の諸課題について、今国会で大いに議論を深めてもらいたい。