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[社説]民間の力を生かして労働移動の促進を

政府が労働市場改革の指針をまとめた。転職で収入が増えやすい社会を目指すというが、こまごまとした制度の見直しが多く、労働移動を促すには迫力不足だ。民間企業のノウハウを活用して改革を加速させるべきだ。

政府は働き手のリスキリング(学び直し)支援と職務給の普及、成長分野への労働移動を「三位一体の改革」と名付け、その具体策を示した。

自己都合の離職で2カ月以上かかっていた失業給付の支給を、リスキリングの実績などを条件に7日程度に早める。雇用調整助成金は30日を超える場合は教育訓練を求めることを原則とし、同じ会社に長く勤めるほど有利な退職所得課税のあり方も見直す。労働移動を阻害しかねない仕組みにメスを入れるのは一歩前進と言える。

リスキリングについては企業経由から個人への直接支援に重心を移し、補助率の拡充を検討する。方向性は妥当だが、重要なのは能力を高めれば収入が増えるという道筋を示すことだ。

ハローワークや人材会社が持つ求人情報を官民で共有し、転職希望者への助言に活用するという。情報が基礎データにとどまるため、有用性は不透明な面がある。職種ごとに必要なスキルや賃金水準がきめ細かく分かる情報インフラの整備を進めてほしい。

ハローワークの改革ではコンサルティング機能の強化を掲げたが踏み込み不足だ。転職市場だけでなく最新技術の動向も熟知した職員は少ない。職業紹介業務を含めて民間への委託を検討すべきだ。

実践的なスキルを持つ人材を育てるうえでも民間の協力は欠かせない。スウェーデンの職業訓練では企業が長期の実地研修を受け入れる。IT(情報技術)をはじめ人材不足が懸念される分野などで、官民一体で担い手を育てる枠組みが求められる。

人口が減る日本では成長分野へ働き手が移り、企業の新陳代謝を通じて産業力を高めることが不可欠だ。デジタル化が促す構造変化で意図せざる離職も増える可能性が大きい。こうした前提のもと、社会全体での雇用の安定と経済の発展を両立させる政策が要る。

欧州では柔軟な労働市場と手厚い安全網を兼ね備える「フレキシキュリティー」と呼ぶ政策が広がる。日本政府もこの考え方を取り入れ、さらに踏み込んだ改革を進める必要がある。

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