[社説]物価高見すえ労組は賃上げで存在感示せ

労働組合の中央組織である連合が、2023年の春季労使交渉で5%程度の賃上げを要求する方針を発表した。物価高で働き手の生活は圧迫され、賃上げの重みは増している。組織率が低迷する日本の労組は今こそ交渉力を高めて存在感を示してほしい。
連合の方針は基本給を一律に上げるベースアップ(ベア)で3%、定期昇給(定昇)で2%程度とする。16年から22年まではベアと定昇で4%程度の賃上げを求めてきた。5%程度となるのは28年ぶりで、物価高を踏まえて産業界の相場を引き上げたいという。
ただ消費者物価指数(生鮮食品を除く)は9月に前年同月比3.0%上昇した。賃上げが物価高に追いつかず、実質賃金は8月まで5カ月連続でマイナスとなっている。コロナ禍の影響が大きかった年の要求水準と比べても、連合の方針は控えめにみえる。
円安が進み、エネルギー価格が上昇するなかでも最高益を更新する企業は少なくない。業績が好調な企業の労組は積極的な賃上げ要求を掲げるべきだ。
日本の独特な「企業別組合」は会社と運命共同体の関係になり、賃上げ要求は抑制しがちだ。政府が賃金交渉に口出しする「官製春闘」が近年続いているのも、労組の影響力の低下を表している。
2%前後にとどまってきた賃上げ率を引き上げるには、労組自身が変わる必要がある。前例主義を廃し、年功賃金などの改革も避けずに議論すべきだ。賃金上昇につながる生産性向上策や人材教育への投資についても、積極的に提案し会社と協議してほしい。
経営者にも積極的に賃上げを検討するよう求めたい。
日本の平均賃金は過去20年以上にわたって停滞し、欧米主要国との差は広がった。労働分配率が低下する一方で、企業の利益剰余金は500兆円超と過去最高の水準に達し、現金・預金も約240兆円に膨らんでいる。
日本企業が成長力を失い、イノベーションをなかなか生み出せないのは人への投資で欧米に後れを取ったのが一因だ。業界横並びや中小企業への配慮といった従来の発想から脱し、賃金増で他社をリードしてほしい。
より良い待遇を求めて働き手が転職しやすい柔軟な労働市場が整えば、企業に賃金競争を促すことにもなる。政府は環境づくりを急ぐべきだ。