[社説]ウクライナの越冬支援を急げ

この冬は寒さで数百万人の命が脅かされる。ウクライナではそんな人道危機が現実となっている。看過するわけにはいかない。
原因はロシアによるインフラ攻撃だ。侵攻が始まった2月以降、ウクライナのエネルギー施設の半分以上が破壊または損傷を被り、人口の4分の1にあたる1千万人が電気のない生活を強いられている。23日には全土で緊急停電が実施された。
首都キーウ(キエフ)はすでに気温は氷点下だ。寒い地方では今後マイナス20度まで下がる予報も出ている。
懸念は電気がないことだけでは済まない。自宅や避難所で電気の代わりにまきや木炭を燃やしたり、ディーゼル発電機を利用したりするケースが増えている。
その際に発生する有害物質が肺炎など健康被害を引き起こしかねないことが指摘されている。子供や高齢者、気管支などに疾患がある弱者が心配だ。
一方、医療体制は悪化の一途だ。世界保健機関(WHO)が21日に発表した声明によると、病院など703の医療施設が攻撃を受けたことが確認された。国際法であるジュネーブ条約に明らかに違反する行為だ。ロシアを強く非難し、即刻の攻撃停止を求める。
医療施設のなかには直接攻撃を受けていなくても、停電を余儀なくされているところが多い。人工呼吸器や保育器などが使用できず、十分な治療ができない「医療崩壊」が起きている。
今後は新型コロナやインフルエンザの流行も予想される。まさに生命にかかわる人権の侵害だ。ウクライナ国民が冬を乗り切れるよう支援するのは国際社会の道義的な責務といえる。
11月上旬の主要7カ国(G7)外相会合は共同声明で越冬支援を打ち出したが、具体化を急がねばならない。10月下旬の総合経済対策に支援策を盛り込んだ日本も例外ではない。来年のG7議長国として議論をリードすることを期待する。