[社説]東芝は混乱に幕を引き戦略事業の強化を

8年に及ぶ長期の混迷に今度こそ終止符を打てるだろうか。
経営不振の続く東芝が国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)による総額2兆円の公開買い付け(TOB)提案の受け入れを決めた。TOBが成立すれば経営陣との対立が目立った物言う株主はいなくなり、東芝は非上場企業として再出発する。
名門の再生が軌道に乗るか、外資の経験が長い島田太郎社長以下の経営陣の手腕に注目したい。
2015年に不正会計問題が発覚した東芝は米原発子会社での巨額損失が重なり、17年に6千億円の増資を実施した。上場廃止を避ける狙いだったが、この時に多数の物言う株主が東芝株を持ち、その後の経営を揺さぶってきた。
21年6月の定時株主総会では取締役会議長の永山治氏の取締役再任案が否決された。22年3月の臨時総会では会社提案の事業分割案も否決された。
TOBが成立すれば、物言う株主は会社を去る。東芝はJIP案を受け入れる理由として「安定した経営基盤を構築し、株主からの統一的な支援を得ることができる」と表明し、一部株主の意向に振り回される現状から抜け出せるメリットを強調した。
東芝は原子力発電や送配電設備、パワー半導体、車載用蓄電池、量子暗号など経済安全保障に直結する事業を数多く持つ。戦略事業の強化に専念できる経営環境が整うのは歓迎すべきことだ。
ただ同社はTOBには賛同するが、株主に応募を推奨するとは決めていない。TOB実施のメドも7月で、それまでにマクロの環境変化もあり得る。仮にTOBが成立したとしても、その後の東芝は巨額の有利子負債を抱える。
加えて買収の主体となる買収目的会社にはJIPのほか、オリックスや中部電力など多数の企業が出資する。船頭が多すぎて経営が混乱するようでは困る。
振り返れば、東芝は目先の窮地を乗り切るためにフラッシュメモリーや医療機器など事業価値が高く、買い手も多い優良事業を売却してきた。その結果、事業構成は弱体化し「稼ぐ力」も衰えた。
優良事業の切り売りではなく、早期の非上場化や再生型の法的整理など大胆な手を打ったほうが時間のロスも少なく、より力強い再生を期待できたのではないか。
東芝の混乱の歴史から私たちが学ぶべき教訓は多い。