[社説]エネ政策転換は国民理解得て進めよ

エネルギー政策の大きな転換である。政府は22日にまとめた脱炭素社会へ向けた基本方針で、これまで「想定しない」としてきた原子力発電所の建て替えや、運転期間の延長を明記した。
2011年の東京電力福島第1原発事故以来、政府は原発の新増設の議論を避けてきた。現実を直視し、建設に踏み出すのは評価できる。ただ、決定プロセスは丁寧さに欠けた。今後の具体策の肉づけは、国民の理解を十分に得つつ進めてほしい。
現実直視し原発を活用
エネルギーや気候変動問題は切迫度を増している。ロシアのウクライナ侵攻は世界の分断を広げ、エネルギー価格高騰と需給逼迫を招いた。日本も他人ごとでは済まされない。
一方、化石燃料の燃焼で出る二酸化炭素(CO2)などによる長期的な気温上昇は続いている。温暖化が原因とみられる猛暑や豪雨などの異常気象が頻発し被害は広がっている。エネルギー供給不安と気候変動という「2つの危機」への対処は待ったなしだ。
エネルギー自給率の低い日本は太陽光や風力など再生可能エネルギーの利用を最大化すべきだ。稼働中にCO2がほとんど出ない原発を含め、あらゆる電源を活用するのは理にかなう。基本方針は日本経済新聞が9月に出したエネルギー・環境提言と合致する。
ただ、課題は多い。これから建設する原発は、安全審査を通れば21世紀の終盤まで使い続けることになる。政府の方針も「将来にわたって持続的に原子力を活用する」と明記した。
子孫の代まで影響する重要な政策転換なのに、骨子は経済産業省の会議で9月以降、数回議論しただけで固まった。ネットで中継したとはいえ「いつの間にか決まった」と感じる人は多いだろう。
21年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画は「可能な限り原発依存度を低減する」としていた。原発に関してはこれにとらわれすぎると動きがとれない。見直しが必要なら正面から検討してはどうか。
原発の建設・運用は兆円単位の投資を要するうえに、事故が起きれば巨額の損害賠償が生じるリスクを伴う。使用済み核燃料の最終処分地も決める必要があるが、メドはたっていない。再処理工場の稼働も遅れに遅れている。
こうした問題の解決に政府が前面に立つと言うが、具体的にどう実行するか示してほしい。
新方針に基づき、原発の運転期間はこれまで最長で60年だったのを事実上、延長できるようになる。安全性を大前提に既存の原発も最大限使うのは妥当だ。
運転期間をめぐっては原子力規制委員会の山中伸介委員長が指示する前に、水面下で経産省と規制庁が必要な法改正などの検討を始めていたという。規制と推進の分離が疑われるような不透明な進め方は避けるべきだ。
政府は今回の基本方針について、広く意見を集めるパブリックコメントを実施する。だが、それだけでは不十分だ。
福島第1原発事故を経験した日本では、原発への不安や電力会社への不信感が根強い。物事を丁寧に進め多くの人が納得感を得られるようにしなければならない。
対話集会で信頼醸成を
すぐにでも原発の安全かつ有効な利用へ向けた国民との対話集会を開いてはどうか。政府、自治体、電力会社、原子炉メーカー、原子力規制委などが参加し各地で継続的に実施するのが望ましい。
建設する次世代革新炉はどれだけ安全なのか。避難計画はどう変わるのか。疑問に答え、率直に意見交換することで信頼関係も醸成されよう。
政府の基本方針ではグリーントランスフォーメーション(GX)に官民で総額150兆円を投じる絵を描く。民間投資の呼び水となる20兆円を政府が負担し、そのために23年度からGX経済移行債(仮称)を発行する。
財源として排出量取引や賦課金など、排出するCO2に価格付けするカーボンプライシングを導入する時期を明記した。脱炭素のインセンティブとしても重要であり着実に実行してほしい。
政府の脱炭素化への取り組みは、これまでスピード感に欠けていた。もっと早くから洋上風力発電や蓄電池の開発・利用、送電網の整備などを加速していれば、エネルギー不足のリスクを軽減できたはずだ。
大規模な投資を無駄にすることなく、日本の競争力向上につなげなければならない。

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