[社説]信頼失った日野自の不正続出

もはや自動車メーカーとしての体をなしていないと言われても反論はできまい。またしても排ガス試験での不正が発覚した日野自動車のことだ。
これまでに明らかになっていたのは大中型トラックでの試験データの改ざんだった。外部の委員会に調査を依頼し、報告書がまとまったのが8月初めのこと。出直しを誓ったはずが早速、他にも膿(うみ)があったことが発覚した。
問題視すべきはその過程だ。国土交通省が立ち入り検査して、小型トラックでも規定の試験がなされていなかったことが分かった。
すでに大中型で不正があったのだ。国交省から指摘されるまでもなく、なぜ自ら小型での不正を特定できなかったのか。なぜ問題を大中型に限定して検証したのか。同じような事態が社内の他の部署にも及んでいるかもしれないと、なぜ想定できなかったのか。
これでは自浄作用が働いていないと言わざるをえない。もはや日野自の信頼は地に落ちた。経営陣にも社員にも猛省を促す。親会社であり、社長を送り込んできたトヨタ自動車も責任を逃れることはできない。
今回の不正発覚で、日野自は国内ではほとんど売れる車がなくなった。前代未聞の事態であり、物流網への影響も懸念される。
日野自はトヨタを親会社に持ち、財務体質も強固だ。すぐに経営危機に陥ることはないだろう。
だが、今問われるべきは業績ではない。企業としての社会的責任をどこまで自覚しているのか、という疑問が突きつけられていると認識すべきだ。
小木曽聡社長は「抜本的な改革に、覚悟を持って取り組んでいく」と話した。その言葉を実行に移す以外に、日野自が取れる選択肢はない。
日野自は源流をたどれば明治時代に遡る。我が国の物流を支えてきた歩みの全てを否定はすまい。それでも再び社会の信頼を勝ち得るために、今こそメーカーとしての原点に立ち戻るべきだ。