[社説]FTX破綻が示した無法状態の危うさ

暗号資産(仮想通貨)交換業大手FTXトレーディングの経営破綻は、米国の暗号資産取引が「無法状態」にある危うさを浮き彫りにした。負債総額は100億ドル(1兆4千億円)前後、債権者は100万人を超すとみられる。
ずさんな経営と会計の実態が次々に露呈した。顧客からの預かり金を分別管理せず、銀行口座のリストさえなかった。会社のカネを経営陣や従業員の住宅購入に充てていた。言語道断である。
マイナーな暗号資産の価格の虚構性も際立った。FTXの「資産」の大部分が、自社発行のものも含めた流通量の少ない暗号資産だった。それが明るみに出るとそれらの資産が投げ売られ、FTXからの現金引き出しが殺到する古典的な取り付けが起こった。
もろもろの不正の素地になっていたのが、米国の暗号資産取引に関するルールの不在だ。暗号資産企業の財務状態や言説の真偽を投資家などが確かめるすべがほとんどない。各種暗号資産の「時価」を認定する会計制度もない。
米国は暗号資産の取引に関するルールを早く整備すべきだ。一方、国・地域による規制の有無や違いを税金逃れや資金洗浄に悪用されないよう、各国の当局が協力して国際的な規制・監視の仕組みを作るべきだ。
日本は暗号資産交換業や派生商品取引の規制を細かく定めており、FTX破綻の被害が波及するのを免れた。ただ規制が厳しすぎてイノベーションを阻害しているとの指摘もある。国際協調を通じて適切なバランスを探りたい。
規制はなくてもベンチャーキャピタル(VC)などの株主は投資先の経営を監督できる。しかし、世界で最も信頼されるVCである米セコイア・キャピタルを含め、FTXの外部株主はどこも取締役を派遣せず、企業統治責任を放棄していた。
近年、スタートアップ株がバブルの様相を呈すなか、デューデリジェンス(投資先審査)を省いた安易な投資が横行していた。VCなどの投資ファンドは他人の資金を預かる受託者の責任を重く受け止め、デューデリと投資先統治を強化すべきだ。
より根源的な問題は、暗号資産が投機の器として以外の存在意義をほとんど確立できていないことだ。起業家も投資家も関連技術を真に意義のある事業創造に生かすべく、努力してほしい。