[社説]広く国民の理解を得る国葬に

政府が安倍晋三元首相の国葬を9月27日に都内の日本武道館で行うと閣議決定した。内政や外交の実績を総合的に評価した判断は理解できるが、国内には国葬への慎重論もある。運営方法の透明性を高め、広く理解を得られる形での実施をめざしてほしい。
岸田文雄首相が葬儀委員長を務め、費用は国が全額負担する。首相経験者の国葬は1967年の吉田茂氏以来、戦後2例目。吉田氏の国葬の際は弔旗を掲げて半休をとる官公庁や学校もあった。
松野博一官房長官は記者会見で、国民一人ひとりに喪に服することを求めるものではないと説明した。「無宗教形式でかつ簡素、厳粛に行う。内閣府の所掌事務として国の儀式の執行は行政権に属することが法律上明確になっている」とも述べた。
政府は国葬とする理由について①憲政史上最長の通算8年8カ月にわたり首相を務めた②外交で高い評価を受け、海外要人の多くの来日も想定される③民主主義の基盤である選挙中に銃撃を受けた経緯――などを挙げている。
安倍氏は2度にわたり政権を率い、アベノミクスを掲げてデフレ脱却と経済成長をめざした。外交や安全保障の強化にも取り組み、国際社会での日本の存在感を高めた。一方で政権運営への評価が分かれているのも事実だ。
自民党の茂木敏充幹事長は19日の記者会見で、国葬に反対する共産党など一部の野党に言及し「野党の主張は国民の認識とかなりずれている」と語った。安倍氏を国葬とする今回の政府判断や自らの政治的評価を他者に押しつけるような言動は慎むべきだ。
不慮の死を遂げた元首相を静かに悼む環境がなにより大切だ。今回の国葬が世論の分断をさらに広げないよう努めるのも政府・与党の役割である。
岸田首相は葬儀委員長として国葬の意義を丁寧に説明し、透明性の高い運営方法を主導してほしい。それが時代に合った国葬のあり方を考える基準にもなる。