[社説]疑惑の全容解明を五輪再生につなげよ

東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件で、大会組織委員会の高橋治之元理事が贈賄側のAOKIホールディングスの青木拡憲前会長らとともに逮捕された。
組織委内で強い影響力を持っていた元幹部が逮捕されたことで、「五輪とカネ」に向けられる国民の疑念はより深まった。容疑が事実であれば、選手やボランティア、大会を支えた国民を裏切る行為にほかならず決して許されない。
逮捕容疑によると、高橋元理事が受け取った金額は5100万円に上る。これ以外にも億単位の金が渡っていたとされている。
本人は逮捕前の取材に「正当なコンサルタント料だった」との趣旨の説明をした。だが犯罪かどうか以前に、国家的プロジェクトを差配する公的立場にありながら利害関係者から巨額の資金を受け取る行為が適切といえるのか。
AOKI側は公式スポンサーの選定や公式ライセンス商品の製造・販売で便宜を図ってもらう狙いがあったと検察はみている。元理事の独断でこれらのことを決めることができたのか。他のスポンサー企業との関係も含め、捜査を尽くしてほしい。
不正を防げなかったとすれば、組織委のコンプライアンスに問題があったことになる。にもかかわらず、関係者が「大変残念」などと人ごとのようなコメントをしているのは理解しがたい。
森喜朗、橋本聖子両元会長をはじめとする元幹部の責任は重い。高橋元理事がかつて役員を務め、大会のマーケティングにかかわった電通も同様である。
昨年の東京大会をめぐっては、招致活動に関する贈収賄疑惑で日本オリンピック委員会の竹田恒和・前会長が仏当局から事情聴取を受けている。
商業化、巨大化する五輪の背後では放映権料やライセンス収入などで巨額のマネーが動く。公正かつフェアであるべき招致活動や大会の運営が特定の人物の利害と思惑に左右されていたとしたら、「平和の祭典」の名を汚す重大な事態だ。
大会組織委はすでに解散し、清算法人となってはいるが、国や東京都はあらためて一連の経緯を何らかの形で調査し、その結果を公表すべきだ。
世界中が徹底した実態の解明を注視している。その成否に五輪の持続可能性がかかっているといっても過言ではない。
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