[社説]EUとASEANは協力を深掘りせよ

欧州連合(EU)と東南アジア諸国連合(ASEAN)がブリュッセルで首脳会議を開き、経済や安全保障の連携を強化する今後5年間の行動計画を採択した。米中対立の舞台であるインド太平洋地域で協力を深める意義は大きい。
EUから全27カ国、ASEANは軍事政権が民主派弾圧を続けるミャンマーを除く9カ国が出席した。ほぼ全ての加盟国が一堂に会する形式での開催は初めてだ。
行動計画の柱は、EUが中国の広域経済圏構想「一帯一路」に対抗しようと昨年末に立ち上げた「グローバル・ゲートウェイ」の一環として、ASEANのインフラ整備に100億ユーロ(約1兆4000億円)を拠出することだ。
中国は援助先に過大な債務を負わせると批判されてきた。EUは採算性や財政の持続性への配慮を強調し、ASEANの成長を後押しする姿勢をアピールする。
EUは権威主義的な中国に警戒を強め、自身も経済の対中依存の見直しに動く。昨年9月に独自の「インド太平洋戦略」をまとめ、日本や韓国、インドとの関係を強化してきた。地理的にインド太平洋地域の中心に位置するASEANへの接近は必然といえる。
一方、米中間の板挟みになりがちなASEANは、EUを「第三の選択肢」とし、大国からの影響力を分散できる利点が大きい。
EUとASEANは、それぞれの域内取引を除けば、互いに3番目の貿易相手だ。首脳会議に先立つ10月には地域間で世界初となる航空協定を結び、すべての航空会社に直行便の運航を認めた。新たな行動計画は、新型コロナウイルス禍後の人やモノの往来をさらに活発にする効果が見込めよう。
会議後の共同声明は、南シナ海問題を念頭に置いた国際法の尊重や、ウクライナの領土の一体性の尊重も盛り込んだ。ただASEAN内の立場の違いに配慮し、中国やロシアの名指しは避けた。
EUは森林破壊を理由にインドネシアやマレーシア産のパーム油の輸入規制を検討し、野党弾圧への制裁としてカンボジアの関税優遇を一部停止するなど、環境や人権で姿勢の食い違いも目につく。
今後は首脳会議の定例化に加え、ASEANが主催する東アジア首脳会議へのEUの参画も検討するという。対話の機会を増やし、価値観の溝を埋めていくなかで、双方と関係が深い日本も仲介役として存在感を発揮してほしい。