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[社説]火力発電の脱炭素へ工程表を示せ

エネ・環境戦略を問う㊦

電力供給の綱渡りが続き、東京に初めて「電力需給逼迫注意報」が出された6月末、電力の供給量に占める火力発電の比率は連日7割を超えた。

脱炭素の実現には二酸化炭素(CO2)排出量の多い火力発電を減らし、いずれこの排出を実質ゼロにしなければならない。

頼らざるを得ない現実

足元では原子力発電所の再稼働が進まず、再生可能エネルギーへの主役交代にはまだ時間が必要だ。その間は火力に頼らざるを得ない現実がある。一方で古い火力発電所の休廃止が増えている。2031年度までの10年間で設備能力が12%減ると見込まれている。

円滑なエネルギー転換のためにも、火力の適切な能力を維持する必要がある。発電所建設は多額の投資を時間をかけて回収するが、脱炭素への関心の高まりを背景にその確保が厳しくなりつつある。

政府系金融機関が融資を主導し、投資回収の予見性を高めて民間金融機関が参加できる体制を整える必要がある。そのためには、あわせて火力の脱炭素を進める工程表を示すことが重要だ。

まず、化石燃料の中でもCO2排出量が多い石炭火力は建設中の案件以降、新設すべきでない。新設は液化天然ガス(LNG)火力に限定する。既存火力を30年以降に使う場合は、石炭にアンモニア、LNGに水素を混ぜて使うか、排出するCO2を回収して処理することを条件とする。

水素や、水素と窒素を合成してつくるアンモニアは燃焼させてもCO2が出ない。段階的にCO2排出量の基準を強化し、混焼度の引き上げを促す。日本が温暖化ガスの排出実質ゼロを掲げる50年までに、水素やアンモニア100%への移行を目指す。

LNG火力を新設する場合も、将来の水素への燃料転換やCO2回収を条件とする。欧州連合(EU)も新設は事実上、水素混焼などの技術と組み合わせることを前提としている。英国ではガス火力発電所の燃料を水素に転換する計画も動き出している。

三菱重工業は燃料のLNGに水素を30%混ぜることができるガスタービンの開発にめどをつけた。30年に水素100%で使えるタービンの商用化を目指す。泉沢清次社長は「水素が使えるガスタービンの引き合いが増えている」と語る。脱炭素技術での先行は新市場開拓の武器となるはずだ。

水素は鉄鋼や化学、セメントなど、生産過程で高温の熱を大量に必要とする産業にとっても石炭や石油の有効な代替手段となる。

政府は50年に2000万トンの水素導入を計画するが、国内で調達を賄うには限界がある。一方、海外では脱炭素時代の資源国といえる国々が出現しつつある。

水素には大きく2つのつくり方がある。太陽光や風力など再生エネを使って水を電気分解してつくる「グリーン水素」と、石油や天然ガスから水素を取り出し、残ったCO2を地中に埋めたり工業原料に再利用したりする「ブルー水素」である。

水素供給網で主導を

オーストラリアや中東・アフリカでは、広大な土地に大量の太陽光発電パネルを置いたり、豊富な天然ガスや石炭を使ったりして、水素やアンモニアを生産するプロジェクトが動き出している。

アジアの国々は日本同様、火力発電への依存度が高い。成長に伴い電力消費も拡大している。この脱炭素をどう進めるかは課題だ。

安価で大量の水素やアンモニアを安定確保するために、これらの資源国やアジアの消費国をつなぐ供給網を日本が主導して築くことが重要だ。技術開発や普及だけでなく、市場づくりや国際ルール整備で国が果たす役割は大きい。

脱炭素時代になってもエネルギー安全保障の重要性は変わらず、むしろ対象は広がる。蓄電池に欠かせないリチウムやコバルトなどの金属資源は産出量が限られ、産地も偏る。需要の急拡大に伴う争奪戦が起こりかねない。

地政学リスクが不透明感を増すなかで、脱炭素技術や製品に不可欠となる資源の安定確保を国家戦略に位置付けるべきだ。調達先の多様化や代替技術の開発、回収・再利用、備蓄の強化などに総合的に取り組まねばならない。

国が前面に立ち、あらゆる手段を総動員し、脱炭素と安定供給の両立を追求する必要がある。

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カーボンゼロ

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