[社説]米国は中東とエネルギー市場安定に役割を果たせ

バイデン米大統領が就任後、初めて中東を訪れ、イスラエルやサウジアラビアの首脳と会談した。
中東は石油や天然ガスの大供給地であると同時に、域内の対立は世界を脅かす要因になってきた。中東への外交・安全保障上の関与を縮小してきた米国が姿勢を修正し、地域とエネルギー市場の安定へ果たす役割に期待したい。
ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに原油価格は高騰した。11月に連邦議会の中間選挙を控える大統領はガソリンなどエネルギー価格の上昇に対処を迫られている。
一方、2018年にトルコで起きたサウジ人ジャーナリストの暗殺をめぐり、バイデン政権はサウジの実力者であるムハンマド皇太子が事件に関与したと結論づけ、両国の関係は冷え込んだ。
原油の増産余力はサウジを中心とする中東産油国に集中する。大統領はその皇太子と会い、原油価格の抑制策を協議した。会談後には増産への期待を表明した。
景気後退への懸念が強まり、サウジがどこまで増産に応じるかは見通せない。しかし、米国がサウジとのいびつな関係を修復し、市場安定で協力することは重要だ。
ただし、関係改善はサウジの人権問題に目をつぶることではない。ジャーナリスト殺害事件を棚上げすれば、米国民の理解を得られまい。
大統領はイスラエル、サウジとの会談で、いずれもイランによる核兵器入手の阻止を確認した。ペルシャ湾岸のアラブ6カ国で構成する湾岸協力会議(GCC)やエジプト、イラクなどの首脳との合同会議でも、中東安定への米国の関与を強調した。
イスラエルとアラブ諸国の関係改善が進む一方、イランとの対立は深まっている。核兵器に転用できる濃縮ウランを、米欧との核合意で定めた上限を超えて増やし続けるなど緊張が高まっている。
米国がイスラエルとアラブの関係改善を後押しし、地域の安保に協力する姿勢は評価したい。一方でバイデン政権はイラン核合意の復活を掲げてきたはずだ。外交を通じた問題解決を諦めてはならない。イランとの交渉を軌道に戻すことも米国の役割だ。
外交・安保戦略の軸足を対中国に移す米国にとって中東の安定は負担を軽減するうえで欠かせない。原油輸入の9割を中東に頼る日本にとっても恩恵は大きい。安定実現へ日米の連携も探りたい。
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