[社説]「脱クルマ屋」探るトヨタ

トヨタ自動車が経営陣を刷新する。創業家の豊田章男社長が会長に就き、後任にはエンジニア出身の佐藤恒治氏が昇格する。新体制は自動車メーカーからソフトウエア領域なども含む「モビリティーカンパニー」への転換を掲げるが、着実な実行を期待する。
豊田氏が陣頭指揮を執った14年間で改革への布石は打っている。例えば、規模の追求より車づくりの力を底上げすることを優先して損益分岐点を引き下げた。
注文を付けるなら、やはり商品投入の面で遅れが否めない電気自動車(EV)の戦略だろう。佐藤氏が率いた高級車「レクサス」からEVシフトを進め、2030年にはEVだけで350万台の販売を目指すという。
グローバル規模で見れば地域によって脱炭素の取り組みや電源構成が大きく異なる。単純に一足飛びにEVに絞り込めば良いというわけではない。その点で、漸進的な移行を選択する戦略は理にかなっている。
ただ、特に欧米で「トヨタは環境対応に後ろ向きだ」との印象を持たれ始めていることは無視できない。
佐藤氏もEVに関してコミュニケーションに課題が残ると自認するが、自社のブランド価値だけに関わる問題ではない。サプライヤーにとっては死活問題となるだけに、丁寧な説明を求めたい。
佐藤氏の言葉を借りれば「クルマ屋」であるトヨタにとって、人工知能(AI)などソフトはまだまだ未開の領域だ。これまでに国内外で研究体制を整備してきたが一段の強化が欠かせない。
自前主義にこだわることなく異業種の知恵を求める余地もあるだろう。モビリティーカンパニーへと会社のあり方を変革するためには柔軟な姿勢が求められる。
豊田氏は金融危機の影響で赤字に転落した直後に就任した。「強いトヨタ」を取り戻した今だからこそ、佐藤氏はじめ新体制には世界に先んじて新しい自動車メーカーのあり方を示してもらいたい。
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