インド、巨大国営生保が上場 試される資本市場の器量

昨秋から不調が続くインドの新規株式公開(IPO)市場がより厳しい試練にさらされようとしている。巨大国営企業のインド生命保険会社(LIC)が3月にも株式上場するのだ。他にも企業価値が10億ドル(約1150億円)以上の「ユニコーン」級スタートアップのIPOがいくつも控える。投資家の厚みや資金供給力などを含めた同国の資本市場の器量が試される。
LICは、1950年代から91年の経済自由化まで約40年間続いたインドの社会主義経済時代の象徴の一つだ。生保市場では90年代いっぱいまでLICの独占が続いた。その後外資を含む民間に市場開放したものの、今でもLICが保険料収入で6割強のシェアを持つ。その金額は世界の保険会社上位20社に入る。
総資産も60兆円強相当と、世界20位以内の規模だ。そのうち上場株の持ち高は2021年末でざっと15兆円で、インドの株式市場の時価総額の3.5%を1社で保有。「インド株式会社の大株主」とも呼ばれる。
13日に証券取引委員会に提出した予備目論見書によると、現在100%の株式を保有する政府が5%分をIPOで売り出す計画だ。現地報道による上場時の時価総額の推計額は18兆~34兆円。中間値の26兆円と仮定すると売り出し合計額は1.3兆円になる。
しかも上場から5年以内にさらに20%分の株を追加で市場に放出することが上場規則で決まっている。株式市場は5年間でざっと6.5兆円相当の株を引き受けることになる。
インド上場株全体の時価総額はおおよそ400兆円だが市場に流通する株は少なく、国内投資信託と個人を合わせても持ち高は50兆円程度にしかならない。そこにLICの6兆円超に加え、これから来年にかけて複数のユニコーンがIPOで株を売りに出す。

地合いは良くない。21年11月にインド史上最大の1830億ルピー(約2800億円)のIPOを断行したスマホ決済Paytm(ペイティーエム)の運営会社のその後の株価低迷が重くのしかかる。昨年公募・売り出し総額が500億ルピーを超えたIPO4銘柄の株価は全て初値を大きく下回る。
目先、オンライン薬局のPharmEasy(ファームイージー)、ネット通販(EC)向け物流基盤のDelhivery(デリーバリー)、ホテルチェーンOyo(オヨ)を運営するユニコーン企業が、公募・売り出し規模1000億円超の大型IPOを年前半に計画している。政府によるLIC以外の国営企業株売却も控える。インド株式市場ではしばらく需給の綱渡りが続きそうだ。
(編集委員 小柳建彦)

中国の「36Kr」、シンガポールの「ディールストリートアジア」、米国の「CBインサイツ」という日本経済新聞社と協力する3媒体の情報を集めた新コーナーをつくりました。世界のスタートアップ企業やテクノロジー情報をまとめて読むことができます。