[社説]安倍氏銃撃が日本社会に及ぼした衝撃

昨年7月に起きた安倍晋三元首相の銃撃事件で、奈良地検が山上徹也容疑者を殺人と銃刀法違反の罪で起訴した。発生から半年がたったいまも、事件の衝撃は日本社会を揺さぶっている。二度と悲劇を起こさぬために何をすべきか。突きつけられた課題は重い。
参院選のさなか、白昼の街頭で有力政治家が殺害されるという凶行は世界中に衝撃を与えた。民主主義が脅かされ、治安に対する信頼は低下した。招いた結果は極めて深刻である。
事件は政治と宗教の関係など様々な問題を浮き彫りにした。山上被告は動機として母親が入信した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨みを挙げ、教団による巨額献金の実態が注目された。
悪質な寄付勧誘を規制する被害者救済法が制定され、教団の解散請求を視野に入れた動きも進む。教団と政治家の不透明な関係が問題視され、自民党は関係の断絶を宣言した。いずれも対応は緒に就いたばかりである。成果や実効性を注意深く見守りたい。
政治的にも大きな影響を及ぼした。党内基盤が脆弱な岸田文雄首相は、最大派閥を率いる安倍氏に党内のまとめ役を委ねる形で支持率を維持してきた。安倍氏亡き後は、国葬をめぐる拙速な対応や旧統一教会への対処が後手に回ったこともあり、支持率の低下を招いている。
銃撃を防げなかった警察の責任も問われた。警察庁は警護計画や組織体制に問題があったことを認め、要人警護のあり方を抜本的に見直した。5月には広島県で主要7カ国首脳会議(G7サミット)が予定される。万全の構えを構築することが、失った信頼を取り戻す第一歩となろう。
事件の全容解明の場は今後、法廷に移る。検察は半年近くにおよぶ精神鑑定の結果を踏まえ、刑事責任能力があると判断した。
被告は銃を自作して安倍氏を撃ったことを認めているものの、なぜ今になって、教団幹部ではなく安倍氏を狙ったのかなどはっきりしない部分もある。冷静かつ丁寧な審理が求められる。
自身の境遇にまつわる不満がどのように殺意に転化したのか。どこかで周囲が思いとどまらせることはできなかったのか。背景や本人の心理を公開の法廷で明らかにすることが重要だ。それを通じて事件の教訓を社会全体で共有しなければならない。