[社説]日米はフィリピンとの戦略連携を着実に

ともに中国の覇権主義的な脅威に直面する、アジアの海洋国家同士の絆の深まりを歓迎したい。
岸田文雄首相は来日したフィリピンのマルコス大統領と9日に会談し、安全保障と経済の両面で関係を強化することを確認した。
昨年6月に就任したマルコス氏は、ドゥテルテ前大統領が冷え込ませた対米関係の修復・強化にも取り組んでいる。同じく米国の同盟国である日本は、3カ国での戦略連携を着実に進めるべきだ。
首脳会談では自衛隊がフィリピンで人道支援や災害救援を行う際の手続きを簡素化する取り決めに署名した。また首都マニラの渋滞緩和に向けた都市鉄道への円借款の供与など、来年3月までに計6千億円の官民支援を約束した。
会談後の共同声明では東・南シナ海の状況に「深刻な懸念」を表明し、名指しはしなかったが中国の海洋進出を強くけん制した。
日本はフィリピンへの開発協力資金の4割を拠出してきた最大の援助国だ。2020年には防空レーダーの輸出契約を結ぶなど安保協力も拡充し、日比関係は一貫して良好な状況が続いている。
ただドゥテルテ前政権は一時、自国内で米軍の活動を認める協定の破棄を宣言し、米比関係を不安定にさせた。米国との協力体制の揺らぎは「力の空白」を生み、中国を利しかねなかっただけに、日本としても不安材料だった。
マルコス政権は一転して対米関係を再強化する。今月初めにマニラを訪れたオースティン米国防長官と、米軍が自国内で使える軍事拠点を新たに4カ所増やし、計9カ所とすることに合意した。
4拠点の場所は非公表だが、台湾に近いルソン島北部を含むとみられる。南シナ海に加え、台湾有事もにらんだ対中抑止戦略の一環として、日本にとっても心強い。
一方でマルコス氏は1月初めに中国を訪れて習近平国家主席と会談し、228億ドル(約3兆円)の対内投資の約束を取り付けた。日米を後ろ盾に南シナ海の領有権を争う中国をけん制しつつ、最大の貿易相手である同国と経済関係は深める。したたかなバランス外交といえる。
アジア新興国が米中対立下で中立を保とうとするのはやむを得ない。地政学上の要衝のフィリピンを中国側に追いやらないため、日米は踏み絵を迫るのではなく、協力の利点や民主主義の価値を絶えず示し続けていく必要がある。