[社説]実務にデジタル改革の浸透を

岸田文雄内閣がデジタル規制改革とマイナンバーの利用拡大に関する一連の法案を閣議決定した。今国会で成立する見込みだ。行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)は法規制改革を実務に反映させる段階に入る。国と自治体は着実に進めてほしい。
政府は目視や対面手続き、人の常駐などアナログ行為を義務付けていた法律、政省令、通達など1万項目弱の国レベルの規制を洗い出し、全てについてデジタル化の可否判断や実行の工程表を昨年中に定めた。そのうち法改正が必要なものを法案に盛り込んだ。
行政のDXに必要な法・制度の整備はこれで一巡する。膨大な数の国の法令を全てチェックした政府職員の努力を評価したい。
ただし、ルール変更だけで自動的に現場のデジタル化が進むわけではない。まず用紙に記入させ、それを見ながら職員がシステムに入力するようなやり方が残っていては、デジタル化が名ばかりになる。しかも地方のDXは各自治体の取り組みにかかっている。
デジタル庁は、既に始めている自治体の「書かない窓口」化などの取り組みを加速し、あらゆる行政の現場についてDXの浸透を後押ししてほしい。
役所の壁を越える行政事務のDXに欠かせないのがマイナンバーの活用だ。従来マイナンバーの用途は税、社会保障、災害対策の3分野の行政事務に限られてきた。今回の法改正ではこの原則を転換し、建築士や小型船舶操縦士などの国家資格管理など、他の用途にも番号を使えるようにする。
また、それらの用途の範囲内で自治体が持つマイナンバーにひも付いた個人情報を照会する場合は省令でできるようにする。
これらの措置は新型コロナウイルス禍で国や自治体がデジタル技術を使った情報連携ができずに給付金の支給などに手間取った反省を踏まえたもので、前進だ。今後は民間企業による活用も視野に入れて、マイナンバーをうまく活用できる方策を探ってほしい。