[社説]NHKはスリム化を続けよ

NHKの新会長に元日銀理事でリコー経済社会研究所参与の稲葉延雄氏が就く人事が決まった。新会長は、業務の整理・効率化で国民の受信料負担を軽減する改革を切れ目なく推進すべきだ。リコーで統治改革の実績がある新会長の手腕に期待したい。
稲葉氏はメガバンク出身の前田晃伸氏の後任で、2023年1月に就任する。前田氏は20年1月に就任後、「スリムで強靱(きょうじん)な新しいNHK」を掲げ、20年度に7200億円だった事業支出を23年度に6720億円まで削減し、23年10月に受信料を1割超値下げする道筋を付けた。
ただ、値下げ後も地上波と衛星(BS)放送を合わせた受信料は月額1950円と、多くの民間動画配信サービスより高い。新会長は改革を深化させて受信料のさらなる値下げを目指してほしい。
事業規模全体のスリム化の裏で、インターネット上のサービスに関しては、国民的な合意も国会での立法もないまま、なし崩し的に拡充してきた。国民は法律に基づいて放送視聴の対価として受信料を払っている。多機能アプリによる非放送用コンテンツの提供はその前提を逸脱している。
6千億円超の受信料収入と膨大な動画コンテンツの蓄積を持ったNHKが自由にネットサービスを拡大すれば、民間のメディアやネット企業との公正な競争が成り立たないという問題もある。情報の多元性が崩れかねない。
ネット時代の公共放送のあり方については政府の有識者会議で検討が始まったばかりだ。最終的には国民的な議論を経て放送法などで改めて定められよう。それまでの間、NHKのネットサービスはあくまで放送用番組のネット配信などに限定すべきだ。
ネット上の娯楽コンテンツが爆発的に増えた現代において、社会がコストを負担してでも必要とする公共放送番組の守備範囲は縮小しているはずだ。NHKが提供すべき放送番組の範囲の見直しにも真剣に取り組んでほしい。