[社説]大国としての責任が増すインドネシア

インドネシアが東南アジア諸国連合(ASEAN)の今年の議長国に就いた。人口は世界4位で2億7千万人を超え、域内で唯一、20カ国・地域(G20)メンバーでもある大国だ。インド太平洋地域の真ん中に位置する東南アジアは米中対立の最前線にあり、国際秩序の安定に向けてインドネシアの責任は増している。
議長国は加盟10カ国が1年ずつ輪番で務める。年に2度のASEAN首脳会議のほか、日米中やロシア、インドなど域外国を招く東アジア首脳会議、北朝鮮も加えて安全保障を議論するASEAN地域フォーラムなどを主催する。
喫緊の課題はミャンマー情勢への対処だ。2021年2月にクーデターを起こした国軍が市民弾圧をやめず、犠牲者は2700人を超えた。国軍は今夏までに形ばかりの総選挙を強行して軍事政権の既成事実化をもくろんでおり、民主派が抵抗するのは必至だ。
ASEANは政変直後にインドネシアの呼びかけで招集した特別首脳会議で「暴力の即時停止」や「対話調停」などに合意したが、国軍は約束を守らない。履行を迫るため、期限を定めた行程表づくりを早急に実行すべきだ。
国軍に対しては、米欧が経済制裁を科す一方、中ロは支援を強化するなど、ミャンマーは民主国家と専制国家がせめぎ合う舞台でもある。はざまに立つASEANを結束させ、混乱収拾に導く指導力がインドネシアに求められる。
南シナ海をめぐっては、中国が軍事化を進め、米国やASEAN加盟国の一部と対立している。紛争防止へ各国の行動を法的に規制する「行動規範」の交渉を加速させる必要があるだろう。
インドネシアはASEANの盟主的存在で、19年のインド太平洋構想も主導した。G20では昨年初めて議長国を務め、11月の首脳会議ではロシアのウクライナ侵攻をめぐる対立で危ぶまれた首脳宣言を採択する成果を残した。
経済は内需の裏打ちで成長を続け、民主主義も定着した。大国の責任を自覚し、世界に向けてより積極的な言動を期待したい。
日本とASEANは今年、友好協力50周年を迎え、12月に東京で特別首脳会議を予定する。ASEANには米中や欧州連合(EU)も接近を競っている。日本は議長国インドネシアと連携を密にし、次の50年に向けて経済と安全保障の両面で協力を深掘りすべきだ。