[社説]米中衝突のリスク顕在化させた気球撃墜

米本土の上空を飛行していた中国の「偵察気球」を米軍が4日、洋上で撃墜した。米国は「主権の明確な侵害だ」と批判し、2月上旬に予定していたブリンケン国務長官の中国訪問を延期していた。これは当然の措置だ。
中国はまず謝罪し、真摯に全ての状況を説明すべきだ。それなくして米中関係の早期改善はない。今回の事案は米中が意図せずして衝突するリスクを改めて顕在化させたといえる。双方は衝突回避に向けて様々なレベルでの意思疎通に努めるべきである。
米軍は1月28日、米領空への気球の侵入を最初に確認。カナダ領空を通過し、31日に再び西部モンタナ州に入った。バイデン大統領は早期に撃墜するよう米軍に指示していた。一般市民への被害を防ぐため、米南部の大西洋上空に入った段階で米軍が撃墜した。
米軍はこの気球を偵察用とみなし、意図的に米国とカナダを横断して軍事施設の機密情報などを得ようとしたと分析している。モンタナには大陸間弾道ミサイル(ICBM)を運用する米空軍基地がある。類似の偵察気球は過去数年間に東アジア、南アジア、欧州などの上空でも目撃されていた。
中国は「中国の民用無人飛行艇」への武力攻撃だと主張する。中国外務省は「強烈な不満と抗議を表明する」とのコメントを発表した。「明らかに過剰反応で国際慣例に重大に違反している」と反発した。同時に「さらに必要な反応をする権利を留保する」と今後の対抗措置まで示唆している。
民用のものが不可抗力で米国に進入してしまったという中国の主張には様々な面から大きな疑義がある。中国では航空・宇宙、気象に関わる部門には政府の関与が必ずあるためだ。
米側が回収を進める落下物の詳細な分析を待つ必要がある。とはいえ、米上空に気球を侵入させた当の中国側が、米側に抗議するのは明らかに筋違いだ。米国の世論や議会をいたずらに刺激し、米中対立をさらに激化させかねない危うい事態である。
ブリンケン氏の訪中は2022年11月のインドネシアでの米中首脳会談を経て調整が進んでいた。両国の不測の衝突を防ぐには対話の積み重ねが欠かせない。米国が「状況が許せば」訪中を実現する方針を示したのは望ましい。世界は米中両大国が安定的な関係を築けるかどうかを見守っている。