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電力市場に変革起こせるか 英オクトパスが始動

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英国の電力小売会社オクトパスエナジーが東京ガスと組んで日本市場開拓に乗り出した。デジタル技術を活用した顧客管理基盤をいかし、多様なプランと低廉な再生可能エネルギー電力の提供で急成長する黒船は、日本の電力市場に変革を起こせるだろうか。

「働く仲間が見えるように机の角度も注意深く設計した」。オクトパスエナジーのグレッグ・ジャクソン最高経営責任者(CEO)はオンラインインタビューの際、カメラをロンドンの職場に向けてみせた。

フリーアドレスの机と明るい内装、植物を配置したスタイリッシュな休憩スペース。都内にある東ガスとの合弁会社TGオクトパスエナジー(東京・中央)も英本社のコピーのようだ。なかでも目をひくのは、社名にもなっているキャラクターのピンクのタコだ。グレッグCEOは「キュートだろ」と笑う。

オクトパスは2015年に創業した。テック企業として出発した同社は人工知能(AI)機能を備えた独自の顧客管理基盤「クラーケン」をもとにしたきめ細かいプランと、SNS(交流サイト)を活用した双方向の顧客対応を武器に急成長した。英国では顧客数が300万件を超え、英電力市場を押さえる大手の一角を崩しつつある。

東京ガスは20年12月にオクトパスと提携した。料金請求や電力広域的運営推進機関との情報のやりとりなど、クラーケンを日本市場で使うための調整を終え、21年11月に試験的な契約プランを発表した。22年1月には再生エネが実質100%のプラン「グリーンオクトパス」を出した。

TGオクトパスの中村肇社長は「新型コロナウイルス禍でクラーケンの調整も英国との間でリモートにならざるをえなかったが、できるだけ早くプランを出したかった」と語った。

非化石証書を使い温暖化ガスの排出を実質ゼロとするプランはほかもあるが、証書のコストなどで通常より割高だ。グリーンオクトパスは「単価では東京電力エナジーパートナーの規制料金よりも安い」(オクトパスエナジー)。

中村社長は「オクトパスの『グリーンな電力をより安く』という哲学に基づいている」と説明する一方、販売戦略上の判断を込めた料金設定であることを認める。このコスト負担を圧縮するのが、オクトパス流のマーケティングだ。

オクトパスは大手の新電力が競うマス広告からは距離を置く。重視するのはSNSなどを通じた「口コミ」だ。顧客には決まった担当者を配置し、きめ細かな対応で顧客満足度を高め、評判と紹介で顧客を広げる。

もうひとつの特徴は、TGオクトパスの活動には外から見る限り、東京ガスの気配が感じられないことだ。事業からオフィスのデザインまでオクトパス流を貫く。東ガス出身の中村社長は「新しい価値を生み出す会社にしたい」と語る。東ガス首脳も「成長にはグループが同じことをするのではなく、遠心力も必要だ」と言う。

一方で販売用電力は東ガスが窓口の調達グループに加わり安定的に確保する。電力市場では燃料高騰を背景に卸電力価格が上がり、撤退や倒産に追い込まれる新電力も増えている。厳しい環境下で船出したオクトパスの型破りな手法はどこまで通じるか。需要を掘り起こす挑戦が続く。

顧客拡大へ買収も視野

オクトパスエナジーの戦略をグレッグ・ジャクソン最高経営責任者(CEO)に聞いた。

――今の事業規模は。

「英国の顧客数は310万件だ。13カ国で事業を展開し、そのうち8カ国では電力小売りを手掛けている。そのほかでは発電やテクノロジープロジェクトを実施している。日本はアジアで初めての事業となる」

――オクトパスが目指す姿は。

「オクトパスは英国発祥だが、当初からグローバルを視野に入れてきた。電力小売りなどのサービスから始めたが、目指しているのはエネルギーのサプライチェーン全体の変革だ。再生エネをより安価に、素早く届けたい。そのためには迅速で強力なテクノロジーが必要だ」

――オクトパスの技術が持つ強みは何ですか。

「エネルギー業界のテクノロジーは貧弱で、コストが高い。柔軟性を欠き、提供する商品やサービスも限定的だ。我々の顧客管理基盤『クラーケン』は強力な機械学習の能力を備え、膨大なデータを毎日読み込むことで、再生エネ電源と消費のマッチング予測を日々効率化している」

「クラーケンは最初から世界規模のデジタルプラットフォームとして開発した。再生エネ電源や電気自動車などから得た知見は、即座に日本でも、ヒューストンでも世界中で活用できる」

――保有する発電能力と今後の目標は。

「英国やフランスなどに300万キロワットの再生エネ発電の能力を持つ。2020年代後半にはさらに1800万キロワットを加えたい。風力発電設備を設置した地域でこの電力が使えるようになれば、電気料金を半額にする取り組みを実施している。再生エネ革命はその地域と共にあると考えるからだ」

――日本参入の狙いと手応えは。

「東京ガスとの調印から10カ月で、完全な形でサービスが提供できるようになった。その間、新型コロナウイルスで技術者らが直接会うことも難しいにもかかわらず、クラーケンを日本市場に適合させることができた」

「日本でも再生エネ実質100%のメニューを発表し、新電力会社のグリーナの事業を継承した。事業の初期段階に顧客を広げるために、今後も買収の可能性はあるだろう。東京ガスとのパートナーシップは日本を越えていかしていきたい」

――欧州では燃料価格の高騰を背景に電力小売会社が苦境にあります。

「オクトパスはトレーディングのリスクはとらない。財務も保守的だ。事業を展開するするすべての国でエネルギー危機に備えたリスク管理を徹底している。クラーケンの機械学習に基づく需要予測を価格のヘッジにいかしている。英国政府と消費者への影響の緩和策も協議している」

(編集委員 松尾博文)

[日経産業新聞2022年4月8日付]

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