[社説]10万円では解決せぬ育児支援

政府は10月28日に閣議決定した総合経済対策に、新生児1人あたり10万円相当の経済的支援を盛り込んだ。自治体ごとに工夫して妊娠届と出産届の提出にあわせて支給し、育児用品の購入やサービスの利用にあててもらう。
10万円分あれば助かる、という家庭は多いだろう。ただ子育ての負担は単発のお金だけで解決するものではない。どこまでのサポートになるかは未知数だ。
今回のポイントはむしろ、「伴走型相談支援」の充実と経済的支援とを一体的に実施する事業と位置付けられたことだろう。
妊娠中から出産、子育てまで一貫して相談にのり、それぞれの家庭の状況に応じた支援につなげる。新型コロナウイルスの影響もあり、子育て家庭は地域で孤立しやすくなっている。親子に寄り添った相談支援の意義は大きい。
大事なのは、取り組みの実効性を高めることだ。きめ細かく相談にのれる人材を確保することはもちろん、産前・産後ケアや保育所などでの一時預かりといったサービスを増やすことが欠かせない。地域のNPOなどとの連携も大切になろう。
支援が必要な人ほど、家に閉じこもり背を向けてしまうことがある。自治体ごとに知恵を絞ってほしい。こうした充実が伴わなければ、ただ10万円をばらまいただけになりかねない。
政府はこの制度を、継続的に実施するという。それには安定的な財源の確保が不可欠だ。今回の経済対策には、原則42万円の出産育児一時金を大幅に引き上げることも盛り込んでいる。
出生数の減少は政府の推計を7年ほど上回るペースで進んでいる。少子化に歯止めをかけるのは急務だが、財政状況は厳しい。高齢者も含めてどう負担を分かち合うか。国民的な議論と岸田文雄首相のリーダーシップが重要だ。子育て支援には、女性に偏る育児負担の見直しや、男女がともに仕事も子育ても両立しやすい環境整備が必要なことは言うまでもない。