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東日本大震災10年 想定外の危機、教訓は今も

論説委員長 藤井彰夫

(更新)
仙台空港に設置された「復興ピアノ」は、津波にのみこまれ傷ついたが修復されたものだ(3日)

日本、そして世界が震えたあの日から10年がたつ。もう10年か、まだ10年か。感じ方は様々だろう。大地震と津波、そして原子力発電所の事故、かつてない複合危機となった東日本大震災。10年という節目を私たちはコロナ禍という新たな危機のもとでむかえる。

宮城県の仙台空港。震災後の津波で1階到着ロビーに高さ3メートルに達する大量の海水が流れ込み、2階には多数の周辺住民が避難した。その後、空港は米軍による被災地支援「トモダチ作戦」の拠点となった。

「私がここにきたのは日本人の素晴らしい精神をたたえるためです」。

震災から5カ月後、日本を訪れた当時のバイデン米副大統領は、空港ロビーでこう語りかけた。

震災直後、世界は未曽有の自然災害への日本人の向きあい方に驚いた。

支援物資の配給に整然と並ぶ被災者や、全国から集まったボランティアなどの自発的な助け合いに称賛が広がった。

一方で、原発事故をめぐる情報開示の遅れなど日本政府の危機への対応については、米国をはじめ各国から不安の声もあがった。

大震災は日本に多くの課題を突きつけた。原発依存のエネルギー政策、少子高齢化・人口減少と地方の疲弊、政府の危機管理体制の不備――。

10年がたち、道路整備などインフラ復旧は進んだが、震災があぶり出した難題への対応は道半ばだ。

そこにコロナ禍という新たな試練が降りかかった。今回も感染症拡大と経済悪化の双方に対処が必要な複合危機だ。

日本は、都市封鎖など強制措置はとらず、マスク着用や手洗い、3密回避など国民の自主的行動で、欧米に比べ感染者数は抑えられている。

ただ、政府の情報発信や有事の医療体制など危機対応には課題を残す。

大震災後に防災面の対策は進んだが、感染症という新たな脅威に政府は無防備だった。

01年・米同時テロ、08年・リーマン危機、11年・東日本大震災、そして20年のコロナ禍――。今世紀に入り、世界では「想定外」「100年に1度」などと称される深刻な危機が多発している。

危機は繰り返すが、そのたびにその姿を変える。

「想定外」の危機に対応するしなやかさが国家にも国民にも求められる時代になった。

大震災をくぐり抜けた仙台空港もまたコロナ禍の試練にさらされる。台湾、韓国など国際線を拡大し、同空港の19年度の旅客数は過去最高の371万人に達したが、20年度は1月までの10カ月で99万人にとどまる。

人もまばらな空港ロビーに2月、1台のピアノがお目見えした。震災時に津波にのみこまれ傷ついたが修復されよみがえった「復興ピアノ」だ。

その音色は、人のいない国際線カウンターに響き渡る。ピアノの脇には弾き手からの手書きのメッセージがあった。

「多くの人の手でもとの音色を取り戻したピアノのように、私たちも多くの方々の祈りを力にしてこれから先も歩んでいきます」

震災から10年。当時の悲しみ、再起への誓い、教訓を次の世代に語り継ぐとともに、足元の試練に立ち向かう決意のときにしたい。

仙台空港の「復興ピアノ」にそえられたメッセージ(3日)
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