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[社説]政府は着実な労働移動へ大胆な改革を

政府は円滑な労働移動を促すため、失業給付の要件を一部見直す方針だ。成長産業を伸ばし、日本全体の生産性を高めるには硬直的な労働市場の改革が欠かせない。失業給付にとどまらず、転職の阻害要因になりかねない仕組みや制度を早急に洗い出すべきだ。

失業給付の見直しは2月中旬に岸田文雄首相が表明し、このほど厚生労働省の有識者の研究会で議論が始まった。自己都合で離職した場合には給付開始まで原則2カ月以上かかる。安易な離職を防ぐのが狙いだが、こうした制限措置が必要かどうかを検討する。

無収入の期間が短くなれば転職への心理的なハードルが下がり、働き手の選択肢は広がるだろう。リスキリング(学び直し)支援と組み合わせるなど、早期の再就職を促す工夫も求められる。モラルハザード(倫理の欠如)や雇用保険の財政悪化にも目配りしながら制度設計を検討してほしい。

労働移動の阻害要因となりうる制度はこれだけではないだろう。雇用調整助成金は新型コロナウイルス禍で失業率の上昇を抑える効果はあったが、経営不振の企業が人材を抱え込む副作用もある。

同じ会社に長く勤めるほど退職金課税の控除額が大きくなる仕組みは、旧来型の終身雇用を前提としたものだ。転職をためらう要因になりかねない。労働移動を着実に進めるのであれば、政府はこうした制度のあり方についても正面から議論すべきだ。

成長分野に人材が移りやすくするには、公的な職業紹介と職業訓練の見直しも欠かせない。ドイツが2000年代に進めた労働市場改革では、民間の人材サービスを積極的に活用し、企業による実習生の受け入れを拡大した。日本もハローワークの職業紹介機能を民間に開放するなど抜本的な改革が求められる。

政府は個人の学び直しを支援する方針だが、重要なのは能力向上が収入増につながる道筋を示すことだ。仕事の内容で賃金が決まる職務給を普及させるだけでなく、職種ごとに求められるスキルと賃金水準が詳細に分かる情報インフラが必要になる。

柔軟な労働市場への転換は長年の懸案であり、課題は広範囲に及ぶ。小手先の制度拡充や助成金のばらまきばかりでは大きな効果は見込めまい。見取り図を早期に示し、大胆な改革に踏み出すことを政府には求めたい。

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