損保の枠超えリスクに備え
東京海上ホールディングス 防災・減災にも力

水害で家屋が浸水したときに保険金を支払う。交通事故が起きたらケガ人の治療費を払い、壊れた車の修理費を出す。保険契約を通じ、災害や事故への補償を提供するというのが、損保会社の一般的なイメージだろう。
だが、東京海上グループが提供するリスクへの備えは、万が一の際の補償にとどまらない。災害や事故の発生を未然に防ぐ。起きてしまった際の被害をなるべく小さくする。事が起きる前と後を支えるサービスを急速に拡大させているのだ。

災害を例に見てみよう。中央共同募金会と2021年7月に始めたプログラムは、火災保険に加入した人がウェブでの約款や証券を選ぶと、デジタル化で減った費用の一定割合が「赤い羽根共同募金」に寄付される。寄付金は加入者が住む都道府県の共同募金会に配分され、災害復旧支援や防災・減災活動などに充てられる。つまり、東京海上の火災保険が選ばれてウェブ証券にしてもらえれば地域の災害対策が充実し、紙の使用が減って脱炭素にも寄与する。
人工衛星のデータを使った被災地支援も行っている。昼夜や天候を問わず地上を観測できる特殊なレーダーを持つフィンランドのスタートアップ企業と提携。今年8月の豪雨で浸水被害を受けた新潟県村上市では、このレーダーで浸水範囲をいち早く把握。NPO法人を通じて現地の支援団体に提供し、すみやかな支援につなげた。

22年4月には防災コンソーシアム「CORE」を同社主導で本格始動させた。河川、地質、被災者支援、まちづくりなど多様な分野の71法人が参画。各方面の専門家の知見やノウハウを結集して防災・減災の新たな取り組みをつくりだす狙いだ。
事前・事後を支える取り組みは災害に限らない。交通事故を防ぎ、誰もが安心・安全に移動できる社会を実現する。病気の早期発見・重症化予防で健やかな生活を支援する。これらも力を入れている目標だ。顧客の「いざ」を支えてきた東京海上が目指すのは、SDGsに沿い、顧客の「いつも」を支える存在への変革である。
(編集委員 柳瀬和央)
東京海上ホールディングス社長・小宮暁氏 企業・自治体の脱炭素も支援

我々がSDGsで貢献したい重要な領域に気候変動対策があります。東京海上自身が脱炭素の取り組みを進めるのと同時に、保険の引き受けなどを通じてお客様の脱炭素を支援していきます。2020年に買収したGCube(ジーキューブ)という会社は風力・太陽光発電などに特化した保険を引き受けており、再生可能エネルギーの普及を後押しできます。脱炭素をどう進めていったら良いのか、情報提供やコンサルティングで企業や自治体を手助けしたいとも思っています。
脱炭素はリアリティーをもったプロセスをつくり、着実に実現していくことが重要です。それには技術とイノベーションが大事です。そうしたことを主張するために、保険業界として脱炭素の定義や目標設定を担う国際組織である「ネットゼロ・インシュアランス・アライアンス(NZIA)」に国内損保で初めて加入しました。エネルギー事情も含めた日本の立場を主張していきます。
個人も企業もリスクが増大している今だからこそ、当社が果たすべき役割は大きい。脱炭素のほかに、健やかな生活を支援するヘルスケアや、サイバー犯罪への対応、誰もが安全・快適に移動できるモビリティ社会の実現も、我々が貢献できる領域だと考えています。

国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)を実現するために日本が取り組むべき課題とは? 日本を代表する企業の動きを追います。
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