[社説]ロシアは核軍縮条約の順守を

米国とロシアが締結した新戦略兵器削減条約(新START)について、米国務省はロシアが米国による査察を拒否し、条約に違反していると認定した。
ロシアが侵攻したウクライナを米国が支援することへの意趣返しだろう。だが、条約は別問題だ。
核の脅威を故意に高めるのはロシアに核保有を認めた核拡散防止条約(NPT)にもとる行為で容認できない。核大国としての義務と責任を果たすことを求める。
ロシアは昨年8月に査察の一時停止を通告。新STARTに基づく2国間協議も延期した。この事態から、米議会が国務省に条約履行に関する判断を求めていた。
米ロ両国の戦略核弾頭数を各1550発に限定する新STARTは現在、唯一の核軍備管理条約だ。2021年に5年間の延長で合意し、その間に新たな枠組みの条約を模索するはずだった。
しかし、ロシアのリャプコフ外務次官は「後継の条約がなくなる事態もありうる」と警告した。そのような状況は安全保障上の新たな不安定を生む。影響は米国の「傘の下」にある日本にも及ぶ。
ウクライナを巡り緊張が高まっているいまこそ、軍備管理の重要性を認識すべきだ。条約は米ロ間の対話を維持するうえでも大切な枠組みだ。
経済力で劣るロシアにとって、新STARTは米国との均衡を保つうえで都合がいい条約のはずだ。米国に揺さぶりをかけるつもりだろうが、最終的に自らを追い込むものになりかねない。それはロシアも理解しているだろう。
米国内では中国の急速な軍事拡張に対抗するため、米ロだけで核弾頭の上限を定めた条約を疑問視する向きがある。ロシアの違反でその批判が大きくなり、新たな軍拡競争のきっかけとなることを懸念する。その際、取り残されるのはロシアとなる可能性が高い。
核軍縮をライフワークと位置づける岸田文雄首相には米国などとの対話を通じ、条約存続の機運を高める指導力を期待する。

2022年2月にロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって1年になります。戦況や世界各国の動き、マーケット・ビジネスへの影響など、関連する最新ニュースと解説をまとめました。
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