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[社説]着実な最低賃金上げへ労働市場改革急げ

厚生労働省の審議会は都道府県ごとに定める2022年度の最低賃金の上げ幅について、全国平均で時間あたり31円を目安とすることを決めた。時給は現行より3.3%増えて961円となる。

上げ幅は21年度の28円を上回り、過去最大となった。足元の物価高で実質賃金は目減りしている。企業もエネルギーなどのコスト増で影響を受けるなか、働き手の生活支援に一定の配慮を示した水準であり、評価したい。

最低賃金に近い水準で働く人は少なくない。特に目立つのが宿泊・飲食サービスや小売業だ。こうした業種などの非正規社員の待遇を改善し、消費を下支えするうえで最低賃金引き上げの重要性は増している。

欧州主要国に比べ日本の最低賃金は6~7割の水準にとどまる。各国は物価高などを背景に上げ幅を広げており、ドイツは今年10月に15%近く引き上げる。外国人労働者を日本に呼び込むためにも、海外との格差は放置できない。

重要なのは最低賃金を着実に引き上げられる基盤づくりだ。企業の生産性向上が欠かせない。業務の効率化や事業構造の改革を進め、低賃金の労働力に頼らずに収益力を高める必要がある。

急激な賃上げは中小企業の経営を圧迫し、雇用を減らす懸念もある。政府の支援も必要だ。だが不振企業の延命ではなく、新分野への参入など成長を後押しする施策に重きを置くべきだろう。

最低賃金の引き上げは生産性の低い分野から高い分野へ人材の移動を促すとされる。円滑な労働移動を支援することこそが、政府の果たすべき役割だ。

職業訓練はデジタルを中心に実践的な内容に改め、ハローワークも民間のノウハウを積極的に取り入れて職業紹介機能を高める必要がある。雇用の安全網を整え、働き手が新たな職に就きやすい柔軟な労働市場づくりを急ぐべきだ。

最低賃金の上げ幅が大きくなるにつれて、その影響と効果を見極めることも一段と重要になる。英国やドイツは改定の際に、過去の引き上げが雇用や企業の競争条件に与えた影響を精緻に分析する。日本も実証研究の蓄積を進め、多角的に検証する必要がある。

雇用への影響を考慮し、若年層の最低賃金を低く設定する英国の例もある。持続的に引き上げるために最低賃金の決め方を再検討するときだ。

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