[社説]鉄鋼業は環境技術で世界をリードせよ

JFEスチールが大規模な環境投資を打ち出した。2050年までのカーボンニュートラル達成に向けて、まずは30年度までに総額1兆円を投じる。13年度と比べ二酸化炭素(CO2)を30%減らす計画だ。排出削減への第一歩として着実な実行を期待する。
鉄鋼業界は日本の産業部門によるCO2排出量の4割を占める。JFEだけでなく業界を挙げて排出削減に取り組むことが気候変動リスクの低減には欠かせない。
JFEは30年度までを移行期間と位置づけて、現時点で実行可能な設備を導入する。その上で50年までに水素還元製鉄など次世代技術の実用化を進め、カーボンニュートラルの達成を目指す。
移行期間においてはコークス炉の効率化や液化天然ガス(LNG)の活用など現有設備の改良も計画しているが、目玉は電炉の活用だろう。岡山県の製鉄所で高炉を電炉に置き換える。日本の鉄鋼大手としては初の試みだ。
一般的に品質の高い鋼材を大量生産するには、鉄鉱石と石炭を原料とする高炉が向く。だが、高炉は鉄鉱石に含まれる酸素を石炭で取り除くため、その過程で大量のCO2を生成・排出する。鉄スクラップなどを電気で溶かして再利用する電炉は排出量が少ない半面、品質に難点があった。
JFEはスクラップに加えて還元鉄と呼ばれる鉄分の高い原料を使って品質を担保するという。品質は日本の鉄鋼業の生命線だけに、環境との両立が求められる。
炉から出るCO2を抑えるだけでなく、電力調達のあり方にも留意しなければならない。
電炉はその名の通り、大量の電気を使う炉だ。JFEなど鉄鋼大手は製鉄所内で排出されるガスや熱を再利用して発電所としての働きも担ってきた。社会全体での排出削減に向け、このような自家発電も含めた電力の効率活用にも知恵を絞る余地がある。
CO2削減に貢献する「グリーン鋼材」の普及も課題となる。鋼材を使う側の意識改革が必要だ。産業界を挙げて環境に優しい鋼材の価値を訴求し、利用する機運を高めなければならない。政府によるインセンティブの付与もひとつの手段になるだろう。
日本の鉄鋼産業は規模の面では中国に圧倒され、品質でも追い上げられている。今後は環境対策に活路を求め、再びその技術力で世界をリードしてほしい。
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