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[社説]ミャンマー泥沼の2年が世界の分断映す

ミャンマーの軍事クーデターから2年が経過した。苛烈な市民弾圧を続ける国軍と、武装した民主派勢力が各地で衝突を繰り返し、情勢は泥沼化する一方だ。国際社会で深まる分断も、国軍に強権支配を許す要因となっている。

治安情勢の悪化を理由に、国軍は憲法が最長2年と規定する非常事態宣言をさらに延長し、今年8月までとしてきた総選挙の実施時期もはっきりしなくなる。

アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝した2020年11月の選挙結果をほごにし、形だけの再選挙で支配の既成事実化をもくろむ国軍の愚行は、もとより受け入れがたかった。非常事態の延長でむき出しの国軍支配が長引き、弾圧に拍車がかかる事態に憂慮は深まるばかりだ。

国軍は21年2月1日にスーチー氏ら政権幹部を拘束し、全権掌握を宣言した。抗議する市民に銃撃や拷問を加え、これまでに2940人を殺害した。スーチー氏は汚職など多数の罪で訴追され、計33年の禁錮・懲役刑が確定した。77歳の同氏には終身刑に等しい。

民主派は各地で武装組織を結成し、報復を強める。一部の少数民族勢力と国軍の交戦も激化し、150万人超の避難民が出ている。

一時は「アジア最後のフロンティア」と呼ばれた経済への打撃も深刻だ。世界銀行によれば、21年度に前年比18%減った国内総生産(GDP)は、22年度も3%増と回復が鈍い。米石油大手シェブロンキリンホールディングスなど外資企業の撤退の動きも相次ぐ。

深まる混迷に国際社会は手をこまねいてきた。市民への打撃を避けるため、国軍関係者に的を絞った米欧の制裁は効果に乏しい。他方で、中国とロシアは武器供与や経済支援で国軍体制を支える。

東南アジア諸国連合(ASEAN)は「暴力の即時停止」などの合意履行を求め、国軍へ圧力を強める方針だ。ただ、国軍に批判的なインドネシアやマレーシア、融和的なタイやベトナムなど、加盟国の足並みの乱れは隠せない。

日本は国軍との対話路線をとるが、成果はあがっていない。今年の主要7カ国(G7)の議長国として、民主主義陣営の結束を高める責務がある。いまは政府開発援助(ODA)の新規供与を凍結しているが、既存の供与分にも対象を拡大したり、米欧の経済制裁に追随したりするなど、踏み込んだ対応も排除すべきではない。

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ミャンマー国軍は2021年2月1日、全土に非常事態を宣言し、国家の全権を掌握したと表明しました。 アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる政権を転覆したクーデターを巡る最新ニュースはこちら。

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