[社説]古い作品を再利用しやすく

発行や発表から時間がたった本や映画で、著作権などの権利者が不明になっている作品は多い。企業や個人が合法的に使いたくても手続きが難しい。過去の知的財産が十分に活用できないのは経済、文化の両面で損失だ。再利用しやすいよう制度を改善したい。
著作権は作者の死後70年など一定期間で消滅し、作品は誰でも自由に使えるようになる。しかし作者の連絡先がわからず生死の確認ができない、権利の相続者が不明といった例は珍しくない。国会図書館が明治の出版物を調べたら7割が権利者不明だった。
映像作品は俳優も含め権利者が増える。写真ではそもそも撮影者がはっきりしないものも目立つ。美術品も含め、権利者不明問題はデジタル保存やネット公開の壁になる。電子書籍化やフィルム修復にも支障が生じている。
本来、著作権保護の目的は創作活動の活性化にある。情報発信が容易になったネット時代にふさわしい仕組みをつくるべきだ。学術研究や個人による情報発信、新ビジネス、日本文化の海外へのPRの後押しにもなる。
文化庁は不明作品の利用を長官が特別に認める制度を設けているが、事前の権利者捜しなどが大変なこともあり企業や個人の利用は低調だ。もっと使いやすい制度にしたい。政府は法改正を含め不明作品を利用しやすくする方針だ。関連業界の意見も聞き、使い勝手のいい方法を練ってほしい。
海外でも事情は同じだ。大英図書館は本などの4割、米国は学術著作物の5割が権利者不明との調査結果もある。米国や欧州連合(EU)は権利保護と健全活用の両立を目指すルール作りを進める。デジタル時代は蓄積した知的財産の活用が国の競争力や発信力を左右するとの認識が背景にある。
欧米では日本と異なり事前に権利者を捜すのではなく、まず使ってみて、権利者が名乗り出たら適切に対処する方法が広がりつつある。こうした世界の潮流にも目配りしつつ議論を進めたい。