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大谷翔平、データが示す「死角」 苦手は克服すべきか

スポーツライター 丹羽政善

7月28日、大谷翔平(エンゼルス)は、ベーブ・ルース以来104年ぶりとなる2桁勝利、2桁本塁打をかけて先発登板したが、その前の登板に続いて打線の援護がなく、偉業達成を前に足踏みとなった。

翌日、ルースのお孫さん、トム・スティーブンスさん(69)から「また、打てなかったね」というショートメッセージが届いた。「ピッチングはよかったのに」

去年も3度チャンスがあったが、そのうち2回は好投しながら打線のサポートがなかった。さすがに達成は時間の問題だと思うが、大谷本人ももどかしさを感じているかもしれない。「数字は(後から)ついてくるもの」と言いつつ、こう言葉を足した。「ただ10勝は節目として大事。プレーヤーとしても大きなこと」

もっとも、連続2桁三振を6試合に伸ばし、次回の先発では、ルースの記録に加え、歴代最多の5714奪三振を誇るノーラン・ライアンが1977年に記録した7試合連続2桁三振の球団記録にも挑むことになった。ルースとライアン。大谷は、球史に残る2人の偉人に迫る。

さて、偉業の話はここまでとして、今回のテーマは打撃についてである。大谷と同じ左のパワーヒッターで、今年のオールスターゲーム・ファン投票で指名打者の枠を大谷と激しく争ったヨルダン・アルバレス(アストロズ)は、右投手の外角低めに沈むチェンジアップに角度をつけるのがうまく、今季30本塁打のうち、9本がその球だ。

そのコース、球種は一般的に右投手が左打者に投げる場合、一番長打のリスクが低いとされる。大谷と対戦する右投手も、配球全体の23.1%がチェンジアップ(一番多いのがフォーシームで37.0%)というデータがある。コースも外角低めに徹底されている。

球種にかかわらず、外角は大谷攻めにおいてリスクが低く、ストライクゾーン内のコース別バレル率(全打球に対するバレル打球の比率、バレルの説明は後段参照)を調べてみると、やはり真ん中から内側に比べると、その比率が低いことが分かる。

これは46本塁打を放った昨年も同様の傾向が出ている。内角高めの13.3%を除けば、やはり外角のバレル率は他のコースに比べて低いので、相手投手にしてみれば、そこをどう振らせるかが、攻略の軸となる。

バレル 打者の評価において重要な指標で、打球初速と打球角度の組み合わせ。バレルに必要な打球初速は最低98マイルで、その場合の打球角度が26~30度であれば、バレルゾーンに入ったと規定する。打球初速が1マイル上がることに打球角度は広がり、99マイルの場合、打球角度は25~31度、100マイルであれば24~33度でバレルゾーンに入る。昨年、バレルの打球の打率は.772、長打率は2.591。大谷の場合、今年前半に限定すると、バレルの打球の打率は.698だった。

ただ、7月23日に放った今季20号は真ん中低めのチェンジアップで、19号も外角低めのチェンジアップだった。

今季、右投手のチェンジアップを捉えてホームランにしたのはこの2本だけ。ということは、大谷はここにきてようやく相手の攻めに適応し始めたと考えていいのか。そう捉えるなら、大谷は今後ますます本塁打を量産するとも考えられるが、必ずしもそうとは言い切れない。得るものがあれば、ときに何かを失いうる。

大リーグには今、打撃要素のビッグ3という考え方がある。①バットスピード②スマッシュファクター③スイングディシジョン――の3要素だ。なかでも最も重要視されるバットスピードについては以前も触れた。

開幕前、大谷にバットスピードの重要性を問うと、「バッティングの要素の1つでしかない」と話しつつ、こう続けた。「もちろん、いい動きをすれば、それなりに良いスピードが出ますし、良いスピードが出れば、それだけ長く(球を)見られるし、ボールも遠くに飛ぶ」

長く見られる、という部分は重要だが、そこを掘り下げるとまた別のテーマになるので機会を改めたいが、あくまでも〝バッティングの一要素〟というという点を、大谷はこう補足している。「いい軌道で入っているかどうかは別の問題なので」

バットの軌道がどうなっているかは、スイングスピードを効率的に打球に伝えているかどうかを示す2番目の要素、スマッシュファクターとの関連が小さくない。

スマッシュファクター もともとはゴルフ用語。100マイルのヘッドスピードでボールの初速が150マイルならば、スマッシュファクターは1.50。野球の場合、計算式に球速も考慮され、数値が大きければ大きいほど、スイングスピードを効率的に打球に伝えていることになる。
計算式 スマッシュファクター=1+(打球初速-バットスピード)/ (球速+バットスピード)

スイングスピードの速さが、打球初速にしっかり反映されているか、と言い換えることも出来るが、「基本的には低い打球を打ちたい」と話す大谷は、その理由をこう説明した。

「やっぱりその方が当たる面積も大きいし、打球速度的にも速くなって、その分、ヒットになる確率も高くなる」

当たる面積とはどういうことか? 「(向かってくるボールの)下をたたける位置を長くバットが通っていれば、いい打球を広角に打てる」

それはまさにバットの軌道の話であり、ボールとバットの軌道は必ずしも一直線ではないが、やや上下にずれて一致していれば接点が増え、タイミングが早ければ右方向に、遅れても左方向に強い打球が飛ぶ――と解釈できる。

こうして大谷の言葉をたどっていくと、スイングスピードの速さをいかに効率的に打球に伝えるかをスイング軌道とともに意識していることが分かる。つまり、その打撃理論には①と②の要素が透けている。

では、③のスイングディシジョンとは何か。分かりやすくかみ砕けば、選手が、どのコースを振った場合に強い打球が打てるのかを把握した上で、そのコースの球を打っているかどうかを意味する。

前段で紹介したようにアルバレスは外角、大谷は内角の方がバレル率が高いが、例えば初球からストライクゾーンだからといって、強い打球を打ちにくいコースを振る必要はないのでは、という論法になる。

逆にそこを克服しようとすることで、スイングの軌道が変わってしまい、その打者本来の長所が失われるのだとしたら本末転倒だ。自分のスイングの特性を理解し、打つべき球と見逃すべき球を見極めよう、という考えが根底にある。

よって大谷が、右投手の外角低めのチェンジアップをホームランにしたからといって、同じような打撃を追い求めると、本来、打つべき球を見逃してしまう可能性もある。全体として本塁打が増えるかといえば、そうとは言い切れないのである。

もっとも、一定の抑止力にはなりうる。相手投手にはあの2本(19、20号)が頭に残る。となると、どうしても投げにくい。もっと厳しいコースに投げようとすればストライクゾーンを外れる。違う球種、コースで勝負しようとすれば、大谷の得意ゾーンに入ることもある。

昨年の開幕シリーズ。ホワイトソックスは大谷に対し、徹底して真っすぐ高めで攻めた。しかし大谷が、3戦目にその球を右中間スタンドに運んで以来、他球団は高めの使い方に慎重になった。

今後、あの2本塁打が、どう変化をもたらすか注目していきたいが、開幕から7月23日まで、右投手が大谷に対してチェンジアップを投げた比率は23.5%。24日以降、29日まではサンプルが少ないものの、16.1%に下がっている。(記録、データはすべて7月29日試合終了時)

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