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三冠馬3頭、伝説のジャパンカップ 1年前の感動新たに

晩秋の府中で、三冠馬が引退の花道を飾った。11月28日に行われた第41回ジャパンカップ。今回限りでの引退が発表されていたコントレイルが、ラストランを見事な勝利で飾った。コントレイルは、新型コロナウイルス禍のさなかで三冠に輝いた馬だ。レース直後のインタビューを聞いていると、福永祐一騎手から絞り出されたひとことひとことに併せて、激動だったこの2年近くの日々が走馬灯のように頭に浮かび、筆者も感極まった。

引退式では、真っ暗になった東京競馬場のパドックに多くのファンが残り、思い思いにコントレイルとの別れを惜しんでいた。楽しみは次のステージでの活躍となる。今回はジャパンカップの歴史を振り返りつつ、「伝説の一戦」となった2020年のジャパンカップの現地の様子を伝えたい。

日本競馬発展の歴史が詰まったレース

ジャパンカップは、日本馬が強くなってきた歴史そのものといえるレースだ。「世界に通用する強い馬づくり」を掲げて1981年に誕生した。創設とともに海外の有力馬が日本に遠征するようになったが、結果として見えてきたのは日本馬との実力差。第1回は米国のメアジードーツが2分25秒3という、当時の国内では驚異的なレコードタイムで優勝した。4着までを外国馬が独占し、日本馬の最先着はゴールドスペンサーの5着だった。翌82年、83年も外国馬が勝ち、日本馬初優勝は、第4回のカツラギエースを待たねばならなかった。

このように、創設当初は外国馬に圧倒されていたが、多くの方々の努力の結果、日本馬は年を追って強くなった。今では日本馬が当たり前のように世界の主要レースを制するようになり、ついに今年は北米競馬の祭典、ブリーダーズカップで勝ち星を挙げるに至った。私が競馬を見始めた2008年の時点でも、日本馬は既に海外でも通用していたが、昔から強かったわけではない。そんな日本競馬発展の歴史を、ジャパンカップというレースは教えてくれる。

2020年、新型コロナウイルスにより、私たちは自粛生活を余儀なくされた。誰もが経験したことのない状況にいらだち、不安を覚えながら日々を過ごした。無観客競馬が長く続き、以前は当たり前だった「競馬場に行って生の競馬を楽しむ」こともできなくなった。それまでのGⅠ競走は、多いときは10万人を超えるファンが競馬場に集い、大歓声が湧き起こっていた。しかし、無観客競馬は当然ながら静寂の中で行われる。競馬中継を担当していて、この異常事態になかなか慣れることができなかった。本当にこの放送がファンに届いているのか? ファンは喜んでいるのか? 自問自答する日々が続いた。そのときに改めて、自分たちの競馬中継がファンの歓声に支えられていることを実感した。

そんな閉塞感に包まれた年に、日本競馬では2頭の三冠馬が誕生した。コントレイルと牝馬三冠のデアリングタクト。筆者はこれが偶然とは思えず、どこかに競馬の神様がいるように感じた。18年に牝馬三冠を制したアーモンドアイを含め、現役馬に三冠馬が3頭いるという事実だけでも、歴史上例を見ない。しかも、その3頭が20年のジャパンカップで顔をそろえた。コロナに疲弊した私たちに潤いを与えてくれるようなドリームレースだった。三冠馬が同一レースに集まった一因は、皮肉にもコロナ禍で海外遠征が難しくなっていた状況があった。いずれにしても、第40回という節目の年に、ジャパンカップはひとつの集大成を見せた。

当時のことは今も記憶に新しい。私は幸運にも当日、東京競馬場の担当だった。週末が近づくにつれて胸が高まり、競馬場へ行くのがとにかく楽しみだった。現場に着いてからは、この夢のような時間を忘れないように、一瞬一瞬を目に焼き付けようとした。競馬場を訪れたファンの方々も同じだったのではないか。4384という限られた席数に、5万587人の応募があり、競争率は11.5倍。抽選をくぐり抜けてプラチナチケットを手にしたファンの表情を見ると、誰もが輝いていて、歴史的な瞬間を心待ちにしている様子が伝わってきた。

歴史の証人であることに誇りを持って

キセキの大逃げにどっと沸く直線。迫り来る後続。激しくなった三冠馬2頭を含む4頭の2着争い。それを突き放したアーモンドアイ。最強のメンバーが最高の競馬を繰り広げた。場内からは自然と拍手が上がった。約4000人とは思えない、大きな大きな拍手だった。気付けば自分も放送席で拍手をしていた。周囲の放送エリアを見ても、誰彼なく拍手で、最強の勝者と最高のメンバーをたたえていた。レース前の願いはそれぞれ違っても、レース後のあの瞬間は間違いなく、思いが一つになっていたはずだ。あのときの光景は一生、忘れることがないだろう。

コロナ禍においてはファンだけでなく、競馬関係者に対しても厳しい入場制限が敷かれている。現地でレースを見たくても、かなわなかった人は多い。そう考えると、あのジャパンカップを現場で見ることのできた私は、本当に幸せ者だと感じる。だからこそ、実際にレースを見ることができた一人として、競馬場の雰囲気、レースの様子を語り継いでいく使命があるのではないかと感じている。一人の証人であることに誇りを持って、これからも伝説のレースを語り継いでいきたい。そしてまた、新たな伝説に出合えることを心待ちにしている。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 小屋敷彰吾)

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