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松山、精神的強さ際立つ ZOZOゴルフVで別の高みに

ゴルフジャーナリスト ジム・マッケイブ

2013年に米オハイオ州のミュアフィールドビレッジで行われた男子ゴルフのプレジデンツカップ(2年に1度の欧州を除く世界選抜と米国選抜の団体対抗戦)でのこと。アダム・スコット(オーストラリア)は、世界選抜チームのキャプテンを務めていたニック・プライス(ジンバブエ)に提案した。

「フォアボールマッチ(2人1組で良い方のスコアを採用)は、松山と組ませてくれ」

当時、世界ランキング2位のスコットが、まだ21歳の松山英樹を指名。ミュアフィールドビレッジは、1976年からメモリアル・トーナメントが行われ、87年にはライダーカップ(2年に1度の米国と欧州との団体対抗戦)も開催された名門コースだが、松山にとっては初めて。スコットが松山のためにガイド役を買って出たと、多くは受け止めた。

ところが、タイで迎えた初日の17番。松山のパットでスコットがラインを読み違えた。あのとき、仮に松山が「あれ? 違うんじゃないか?」と思ったとしても、言えなかったのではないか。「つまらない口出しをしてしまった」と後悔したスコットは、すぐに考えを改めた。

「もう、自由にやらせよう」

すると、続く18番で松山がスーパーショット。彼らは1ダウンで最終ホールを迎えたが、松山は完璧なティーショットを放ったあと、残り160ヤードの第2打をピンそばにピタリとつけた。これには米国選抜のビル・ハース、ウェブ・シンプソン組もOKを出し、引き分けたスコット・松山組は貴重な0.5ポイントを奪ったのだった。

スコットは、「松山に(その後の)自信につながるようなゴルフをしてもらいたかった」とも話したが、真の目的はそこにあったよう。ペアを組むことを申し出たのは、単にコースの案内役ではなく、経験を伝え、これから世界で戦うことになるであろう松山に、プレジデンツカップから何かを感じ取ってほしい――そんな思いを込めた。

だとしたら、松山はそのメッセージを正しく受け止めたのではないか。あれから8年。松山は着実に結果を積み上げ、2021年のマスターズ・トーナメントを制するなど、米男子ツアーにおいて存在感を示している。あの18番の2打目はその後、松山のキャリアにとって礎ともなった。

さて、そうして多くの実績を積み上げてきた松山だが、先日、日本で行われた米男子ツアー、ZOZOチャンピオンシップの勝利は格別で、日本のファンの記憶にも特別なものとして刻まれるに違いない。

最終日を単独首位でスタートすると、中盤に入って一度はキャメロン・トリンゲール(米国)に首位を譲ったが、すぐに並び返し、その後、突き放した。松山も「日本のファンの前で勝つことは、目標だった」と感慨深げ。「その目標をかなえられて、満足している」と安堵した。

松山は過去、日本のプロゴルフツアーで8勝を挙げているが、ZOZOチャンピオンシップは、日本で行われる米男子ツアーの公式戦であり、主戦場を米国に移した松山にとって2年前に始まったこの大会は、普段から彼を支えてくれている人の前でプレーできる唯一の大会だ。日本のファンの期待も高く、誰もが彼の優勝を望み、本人もそれを自覚する。もちろん、そういう大会で勝つことは容易ではないが、2度目の挑戦であっさり目標を達成したのだから、驚きである。

パット・ペレス(米国)もこう話した。「2日目に彼の後ろの組でプレーしたが、彼はまるでエルビス(・プレスリー)のようだった。多くのギャラリーとカメラマンを引き連れ、あれだけの注目の中、どうやって冷静にプレーできたのだろう」

注目度は他の選手の比ではない。声援は後押しにもなるが、「勝たなければ」という重圧ともなる。松山自身、「プレッシャーは正直あった」と認める。東京五輪では銅メダルをかけたプレーオフに進んだが、惜しくも敗れた。今回、その悔しさもあったはず。だが、同時にそれは、背負うものがより重くなることも意味する。そうした状況で最終日、一時はリードを許しながら逆転したのだから、メンタルの強さも際立った。

その強さの原点だが、掘り下げるとやはり彼の米男子ツアーでのキャリアそのものが透ける。スコットしかり、松山しかり、外国人選手が故郷を離れ、文化、習慣が違う米国で戦うことは、精神的にタフでなければ務まらない。母国で戦っている米国人選手が感じることのないハンディと常に戦っているのだ。

過小評価されているかもしれないが、2年前のZOZOチャンピオンシップで2位に入ったことも、彼の精神的な強さがあってこそ。タイガー・ウッズ(米国)と優勝争いを演じ、最後は敗れたものの、その背に視線をひしひしと感じながら一定の結果を出したことは、そのことを証明した。東京五輪でも、確かに3位決定戦で敗れたが、最終日は最終組でスタート。しっかり優勝争いに絡んだのである。

「自分に勝機があるとしたら、ギャラリーの多くの方が僕を応援してくれていることが強み。それをうまく自分の力に変えることができた」と松山。今回、見事に勝ちきったことで、次からは勝たなければという義務から解放され、もっとファンの声援を楽しめるはず。この1勝で松山は、また別の高みへとたどり着いたのかもしれない。

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