/

ウッズ、短い投稿に込めた再起への決意

ゴルフジャーナリスト ジム・マッケイブ

1863年11月19日、エイブラハム・リンカーン米大統領はペンシルベニア州ゲティズバーグにおいて、単語数わずか272、時間にして2分ほどの演説を行った。日本では「人民の、人民による、人民のための政治……」と説いた際のスピーチとして広く知られているようだが、アメリカでも、民主主義の原点を示した名演説として語り継がれている。

今回の2つの単語はそれに匹敵――いや、さすがにそこまで持ち上げるのは大げさだが、またたく間に世界に拡散したという意味では、そのインパクトは小さくなかった。

今年11月21日、タイガー・ウッズ(米国)がツイッターに練習風景の映像を投稿。聞こえるのは風とアイアンでボールを打つときの打球音のみ。たった3秒の動画だが、29日現在、750万人が視聴し、3万6100回もリツイートされている。無理もない。2月23日に車で単独事故を起こしたとき、再起どころか、再び歩くことさえ危ぶまれた。そのウッズが練習をしているのである。しかも、相変わらずきれいなフォームで。そして、本人が話しているわけではないが、こんな2つの単語が添えられていた。

「Making progress(前進している)」

この2つの単語こそが今、話題となっている。

おそらく多くの人は、1995年3月の"I'm back(私は戻る)"を思い出したはず。93年10月6日、NBA(全米バスケットボール協会)ブルズのマイケル・ジョーダン(現NBAホーネッツオーナー)が引退を表明。それ自体衝撃的だったが、95年3月に現役復帰を決断。そのとき、そんなわずかな単語のFAXを報道各社に送信した。

FAXというのが時代を感じさせるが、今回の2つの単語も、ファンの気持ちを揺さぶるのに十分。ただ、この言葉と3秒の映像を我々はどう読み解くべきか。様々な臆測が飛び交うなか、今回はその推察を試みたい。

<練習映像から分かることは?>

軽い練習ができるまでに足が回復したということはいえるものの、どの程度かはわからない。11月29日に公開された「ゴルフダイジェスト」誌のオンラインインタビューでは、息子のチャーリーくんと「チッピングコンテストをしている」とは明かしたが、コースを回れるようになったのか。フルスイングはできるのか。練習ラウンドを始めていれば、おのずと情報は漏れるはずだが、彼の自宅の裏庭にはショートコースがあり、そこで練習している限り、状況を知るすべはない。しかし、スイングはスムーズでリズムも悪くない。それだけでも十分、彼が来年、ツアー復帰を目指しているであろうことは想像できる。

<彼はどの程度、真剣に復帰を考えているのか?>

かなり真剣だと捉えていい。2020年11月15日を最後に大会から遠ざかり、12月30日に46歳となるウッズだが、これまでにも長期ブランクは経験済み。16年はホスト大会でもある「ヒーロー・ワールドチャレンジ」という米ツアー非公認の招待大会に出場したのみ。17年は年が明けてから2試合に出場したが、その2試合目を腰痛で途中棄権すると、また長い手術・リハビリ生活に入った。18年も18試合にしか出場していないが、ツアー選手権に勝って復活。翌年4月には5度目のマスターズ・トーナメント制覇を成し遂げている。

そうした過去があるからこそ、おそらく体の状態が回復すれば、まだ戦えると信じているはず。幸か不幸か、長いケガとの闘いが、ポジティブに働いているのではないか。先ほどふれたインタビューでも、「こういうときに必要なのは、我慢だということを知っている」と話したのが印象的だった。

<事故の影響で、彼のイメージはどうなる?>

あの事故が仮に、薬物であったり、飲酒の影響であるなら状況は異なるが、それらは否定され、すでに単独事故として処理された。もはや本当の理由はウッズにしかわからない。

しかし、あの事故に何らかのマイナスイメージがあったとしても、09年の感謝祭に起こした車の単独事故を発端として様々な不倫問題が発覚し、その後離婚に発展した一連のスキャンダルを超えることが隠されているとは考えにくい。17年には運転中、処方薬の副作用により意識がもうろうとなっている映像を公開されもした。

クリーンなイメージが、一瞬にして暗転。そこに故障が加わって彼は何度も引退と向き合った。だが、彼はそのたびに逆境を乗り越え、先ほども触れたように19年のマスターズ・トーナメントで14年ぶり5度目の優勝を果たすと、イメージを回復している。ダメージは勝つことで払拭できることを経験上知っており、それも復帰のモチベーションになっているのかもしれない。

<では、いつ復帰するのか?>

今一度、「ゴルフダイジェスト」誌のインタビューを引用すると、「まだまだ、時間がかかる。おそらく、まだ(復帰できるレベルの)半分にも達していない」と話していることから、さすがに、来年4月のマスターズ・トーナメントで、ということは予想しづらい。彼自身、準備不足のまま、オーガスタナショナルGCでプレーしようとは思わないはずだ。おそらく、7月に行われる第150回全英オープンをターゲットとし、その前に2試合ぐらいチューンアップを兼ねて大会に出場する――というシナリオが考えられるのではないか。

ということは、全米オープン後に、何らかの動きがあるかもしれない。

いずれにしても、ウッズはいつ、"I'm back"とつづるのか。親友でもあるジョーダンにあやかってそんなメッセージを出すなら、95年同様、世界中のファンは熱狂することになるだろう。なお、ウッズは今週、バハマのアルバニーで行われる自身がホストを務める「ヒーロー・ワールドチャレンジ」(12月2〜5日)において、事故後初めて、ファンの前に姿を見せることになっている。

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン