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GⅠの実況席から見た2022年上半期の中央競馬

タイトルホルダーが圧巻のレコード勝ちを決めた宝塚記念(6月26日阪神)で、上半期の中央競馬も一区切り。下半期の訪れとともに福島、小倉競馬が開幕し、いよいよ本格的な夏競馬がスタートします。

新型コロナウイルス禍が続く中ですが、競馬場への入場制限が徐々に緩和された上半期。実況アナとして忘れかけていた「お客さんが盛り上がる中で実況する」感覚を思い出させてくれた半年間でした。そして「日本馬のレベルアップ」を海外レースの実況から感じられた時期でもありました。今回は「GⅠの実況席から見えた2022年上半期」を、振り返ることにします。

筆者の今年最初のGⅠ実況は、5年連続での担当となるフェブラリーステークス。思い起こせば21年は船橋のミューチャリーが地方馬初のJBCクラシック制覇、マルシュロレーヌが日本調教馬初の海外ダートGⅠ制覇を最高峰のブリーダーズカップディスタフで達成と、中央、地方の垣根を越えて大きな出来事が続きました。

「日本のダート競馬にとっては、エポックメーキングな1年となりました去年、2021年。1年365日行われている日本のあらゆる地のダート競馬から、世界の頂点へも通じる道が、勇気ある人馬の挑戦によって切り開かれた1年でもありました。2022年には砂の上にどんなドラマが待っているでしょうか」――。発走直前の筆者の口上で、実は事前に「言おう」と練っていたフレーズでした。

GⅠのファンファーレから発走までに何を言うか、フレーズを前もって用意することはまずありません。かっちり考えたものを言っても、はまることはめったにないからです。しかし、マルシュロレーヌの快挙に感銘を受け、年度代表馬に1票を投じた身としては、今年も名シーンが数多く見られるダート界であってほしい。そんな願望から、普段は取らない行動に走ってしまいました。今になって文字に起こすと恥ずかしい。はまっているとは思えません。

レースは好スタートからスムーズに先行グループで運んだカフェファラオが、危なげなく抜け出し連覇達成。初コンビだった福永祐一騎手の素晴らしいエスコートと、カフェファラオの強さが光った一戦でした。何よりうれしかったのが、前年は無観客で行われたレースを、今年は1万2000人を超えるファンの方々が見守っていた事実。拍手の大きさ、場内の熱気は、コロナ禍前のGⅠデーの雰囲気を、思い出させてくれるのに十分でした。

「想定外」が続いた3度目のオークス

次に担当したのは、3年連続での担当となったオークス。デアリングタクト、ソダシと無敗の牝馬二冠がかかる単勝1倍台の人気馬がいた前2年とはうって変わって、かなり人気が割れる混戦模様で迎えました。

緊張のなか集中力を高めて迎えた午後3時40分。しかし、ファンファーレが鳴りません。直後にターフビジョンが捉えたのは、放馬してしまったサウンドビバーチェ。程なく捕まったものの、馬体検査の結果は無念の除外。スタート直前に生涯一度のクラシックという晴れ舞台に立てなかった陣営の悔しさはいかばかりか。結局、発走は約15分遅れ。想定外の事態でいつ発走するか分からないこともあって、気をもんでいたこの15分が、数字以上に長く感じられたことを覚えています。

レースはスターズオンアースが外からまとめて差し切って二冠を達成。桜花賞は7番人気で鼻差の勝利。今回も3番人気で、正直、桜花賞のような混戦のゴール前を想像していた筆者にとって「終わってみれば1強」という結果は驚きでした。

東京競馬場の入場人員の上限が、最大約7万人まで増えたのがこの週。過去2年とは全く違う、約3万人が足を運んだ熱気の中でオークスを実況できたことには、感謝しかありません。勝ったクリストフ・ルメール騎手がインタビューで、「お客さんがいなくては競馬が楽しくありません。きょうは来てくれて本当にありがとうございます」。やはり競馬場はお客さんがいてこそと、改めて実感しました。

印象深いドバイワールドカップデー

時間は遡りますが、上半期で最も印象に残った実況は3月末。2年連続のドバイ国際競走実況でした。今年も東京で国際映像を見ながらでしたが、2月のサウジカップデーに日本馬が1日4勝の大活躍を見せていただけに内心、「今年こそ勝つところを実況できるだろう」と期待していました。結果は想像以上の熱い1日に。日本勢がサラブレッドの走る8レース全てに出走した今回。日本馬の先陣を切ったゴドルフィンマイル(GⅡ)のバスラットレオンが、坂井瑠星騎手を背に、逃げてそのまま後続を封じて快勝! 06年のユートピア以来、16年ぶりの日本勢の勝利に最初からテンションはいやが上にも上がりました。

芝3200メートルのドバイゴールドカップ(同)では、サウジアラビアでのレースで約3年10カ月ぶりの勝利を飾ったステイフーリッシュが、5戦無敗の地元アラブ首長国連邦(UAE)、ゴドルフィンのマノーボに競り勝ち、重賞連勝で完全復活をアピールしました。レース前、「ゴドルフィンの勝負服のマノーボを、社台レースホースの勝負服のステイゴールド産駒のステイフーリッシュが差したら劇的」と思っていたら、現実になったのでなおさらテンションは上がります。「競り合いになった。ゴドルフィンの勝負服を、社台レースホースの勝負服をまとったステイゴールドの子供ステイフーリッシュ!最後にかわしました!」――。思わず叫んでしまいました。

その後もUAEダービーでクラウンプライドが快勝、ドバイターフは型通り逃げたパンサラッサがしぶとく粘り、猛追した前年の覇者ロードノースと同着でGⅠ初制覇。1つのトロフィーを吉田豊騎手とランフランコ・デットーリ騎手が2人で掲げあった表彰式は、今年のドバイ国際競走のハイライトでした。次のドバイシーマクラシックでも、21年の日本ダービー馬シャフリヤールが好位からロスなく抜け出し、押し切り「日本ダービー馬による初の海外GⅠ制覇」を達成。日本勢が1日5勝するドバイワールドカップデーを実況できるとは……。最後のドバイワールドカップは、1年前とはひと味違う疲労感と充実感の中、大本命ライフイズグッドを破ってカントリーグラマーが先頭でゴールする瞬間を実況していました。

昨年のこのコラムで、初のドバイ国際競走実況後「まだまだ総合力が足りないことを思い知らされた」と書きましたが、それを糧に1年間積み重ねてきた結果のご褒美かも……と感じさせてくれました。

コロナ禍の中、今年も日本馬の海外への遠征は続いています。夏も日本馬が英国やフランスのGⅠに挑む予定で、秋には日本ダービー馬ドウデュースと、充実期を迎えたタイトルホルダーの陣営が参戦を表明している仏GⅠ、凱旋門賞が控えています。下半期も日本勢の海外での活躍、そして、我々実況アナウンサー陣も、久々にモニターのあるスタジオを飛び出し、パスポートと双眼鏡を携えて、日本馬の大一番を実況すべく海を渡る機会が早く戻ることを祈るばかりです。やはり、現地で味わう雰囲気に勝るものはないと感じたからです。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 大関隼)

各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/
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